地方分権推進のための「国庫補助負担金改革案」の実現を求める
意見書に対する反対討論  

2004年(平成16年)9月21日
                       金 井 忠 一

地方分権推進のための「国庫補助負担金改革案」の実現を求める意見書に対し、反対の立場から討論いたします。
 地方6団体が取りまとめた今回の改革案は、大きな問題点を含んでおります。
中学校教員の義務教育国庫負担金制度の廃止や、私立保育園の国庫負担金制度の廃止等も含まれており、少なくない知事や、多くの地方自治体の首長や教育関係者、保育関係者、父母の中からも懸念の声が出されております。
日本PTA全国協議会も8月28日に「義務教育を守るための緊急アピール」を発表しております。
全国知事会は8月19日、深夜にも及ぶ論議の中で、賛成多数という異例の形で、3兆2千億円の補助金削減案を採択しました。
 地方自治体財政を支える補助金削減案を、地方団体自らがなぜ打ち出したのでしょうか。いったい地方自治や暮らしはどうなるのでありましょうか。
 削減案をまとめる発端となったのは、小泉内閣による、地方財政の「三位一体の改革」です。スタートとなった2004年度予算では、地方への支出が3兆9千億円も削られる一方で、増えた税源は4,500億円。地方交付税の大幅削減などで各自治体は予算編成に支障をきたす事態になりました。
上田市でも同様でありました。
「三位一体」の改革は地方へのいくらかの税源移譲と引き換えに、政府の出す補助負担金や地方交付税を大幅に削減するものでした。
 しかし、地方の猛反発で、このままでは「三位一体の改革」が進まないので、全体像と工程表を示すことが必要と、小泉内閣が6月に出したのが「骨太方針2004」でした。
2005年、2006年の2年間の期限を区切って「税源移譲はおおむね3兆円規模」と額を明示したのです。 
そして、地方公共団体に対しては「国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう要請し、これを踏まえて検討する」と打ち出しました。
 税源移譲の約束をちらつかせて、補助負担金の削減リストを作るよう求めたのであります。作成期限は予算の概算要求が始まる前の8月20日とされ、これを受け入れたのが今回の全国知事会議での削減案でした。
 まとめられた削減案は、国が教職員給与の半額を負担している「義務教育費国庫負担金」は2006年度までに中学校分8,500億円削減。09年度までに小学校分含めて全廃するというものです。
憲法26条は国民が「ひとしく教育を受ける権利」を持ち、「義務教育は、これを無償とする」と述べています。教育基本法は教育の機会均等の原則を定めています。
「義務教育費国庫負担金」は、教育の機会均等を保障し、全国的な教育の水準を確保するために国が財源保障に責任を負う制度です。
これを廃止すれば、それぞれの地方自治体の財政力には大きな格差があり、今日、自治体の多くが財政難に直面しているもとでは教育予算が削られ、教育水準の低下や自治体間格差が危惧されます。
 また、地方に税源移譲しても、自治体間の税収格差は避けられず、文部科学省の試算でも40道府県が減収になってしまいます。
 また、私立保所運営費が大半を占める児童保護費等補助負担金4,600億円や、私学助成・私立高校等経常費助成費補助金997億円が含まれており、今後保育料や授業料などの高騰も危惧されます。
上田市議会では、本年3月議会において、「義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書」を全員の賛同を得て採択し、意見書を国に上げております。 
そもそも、国庫補助負担金は、国民の権利を保障し、行政サービスに国が財政的に責任をもつために設けられたものです。福祉や教育など長い期間をかけて国民と自治体の要求で制度化されたものも少なくありません。
一方、政府の経済財政諮問会議は、平成18年度までの「三位一体改革」の全体像を11月中旬までに示すとして審議を行っており、地方交付税の改革が議題となった8月31日の諮問会議では、日本経団連の奥田会長ら4人の民間議員から地方交付税などの改革に対する提案があり審議されました。
その内容は、毎年度のあるべき標準的な地方行政水準を積算し、地方交付税総額の算出の根拠となっている、現行の地方財政計画を根本的に見直し、財源保障の範囲を大幅に狭めようとする内容です。
地方交付税は、どの自治体でも標準的な行政ができるよう財源を保障したり調整する制度であります。
 しかし、もしこの提案の方向が今後具体化されるならば、再び来年度予算での地方交付税の大幅削減につながるだけでなく、「三位一体の改革」の全体像は、地方交付税の縮小・削減を突出させ、地方財源を大幅に削減するものとならざるを得ません。
これでは、地方自治体は昨年以上の厳しい予算編成が余儀なくされ、地方は切り捨てられてしまいます。
 このような状況からして、今日、政府に対し求めることは、地方交付税の財源保障機能を縮小することなく、地方交付税制度の財源調整、財源保障の両機能を堅持し、その内容の充実を図ることであります。
 また、地方財政運営に支障をきたすことのないよう、地方交付税の総額については、平成16年度の大幅な削減前の水準を確保できるよう措置することについて、その実現を求めるものでなくてはなりません。
以上のことからして、今回の地方分権推進のための「国庫補助負担金改革案」の実現を求める意見書は、教育や福祉に多大な影響を及ぼし、国民の合意が得られない重大な内容が含まれており賛成できかねるものであります。
 以上申し上げまして私の討論といたします。