分杭峠付近の鹿塩(かしお)マイロナイト 
 中央構造線は日本最大級の断層であるが、この断層の発生過程や性質、活動史などには 謎の多い不思議な断層である。中央構造線は、主に、その西側に領家変成岩、東側に三波 川変成岩が分布している。領家変成岩は、高温低圧型の変成岩で、現在の日本列島では火 山帯の直下で形成されるような変成岩である。一方、三波川変成岩は高圧低温型の変成岩 で、これまた現在の日本列島で考えるとプレートがもぐり込む海溝のような場所でできる と考えられている。お互いに形成環境がまるで異なる二つの変成帯がなぜ中央構造線を介 して密着しているのか、解明が待たれる。
 分杭峠は長谷村と大鹿村の境に位置する峠で、この鞍部を中央構造線が通過している。 上の写真は分杭峠から北方向を眺めてもの。中央に”溝口中央構造線露頭”がある。  一般に大断層近く岩石には大きな力が加わり元の組織が破壊されて断層粘土(グージュ) カタクラサイト(カタクレーサイト)、マイロナイトなどの特殊な岩石が形成される。 長谷村と大鹿村では変成岩類とともに、これら珍しい岩石が観察できる。

(写真1)領家帯の片麻岩   無色鉱物(長石、石英など)と有色鉱物(角閃石、黒ウンモ、輝石など)の集まった部 分が縞をなしている。中に含まれる鉱物は、高温下で安定な鉱物で構成される。


(写真2)鹿塩マイロナイト   もともとは、中央構造線近くに貫入してきた非持石英閃緑岩が、断層活動により磨り潰 されて形成された。元の鉱物粒子がまだ明瞭に残っているもの(ポーフィロイド様岩)と、 粒子が完全に挽きつぶされてチャートのように見えるもの(ヘルフリンター様岩)とがあ る。写真はポーフィロイド様岩だが、粒子が回転して、粒子の両側に尾を引いている (プレッシャーシャドー)ものがある。


(写真3)三波川変成岩  高圧な環境で形成された変成岩。圧力が加わった方向と直角な方向に鉱物が並び換えを おこしており、平行にぺらぺら剥がれる性質を持つ(片理と呼ぶ)。写真は石墨片岩。 黒い部分が石墨という鉱物から成る。


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