伊那谷断層系(その1)小黒川断層
 伊那谷は中央アルプスと南アルプスに挟まれた南北に長い盆地で、中央部を天竜川が流れ ている。天竜川の両岸には川と平行な何段もの段丘地形が発達していて、これらはかつては、 典型的な河岸段丘と解釈されてきた。  ところがこれらの段丘の多くは川の浸食でできたものではなく、活断層の変位地形だとい うことがわかってきた。
 長年この段丘群を綿密に調査されてきた地元の小学校教員松島先生が、それまでの「常識」 を覆し、断層地形であることをつきとめたのである。そしてその学説は後に掘られたトレンチ によって正しい事が確かめられた。「常識」を否定して生まれた「否常識(ひじょうしき)」 を笑うものは今や誰もいない。  このようにして天竜川の両岸の、中央アルプスと南アルプスに並行して存在する多数の活断 層を伊那谷断層系と呼ぶ。  小黒川断層は伊那市の西側を北東ー南西方向に走っている。断層崖の高さは4〜5mあり、 伊那市勤労者福祉センターの西側と北側の場所で観察しやすい。上の写真は勤労者福祉センタ ーの前の道と広域農道が交わった所の西側で見られる断層崖。

(↑)勤労者福祉センターの北側で観察できる断層崖。ここでの高さは3m程度である。断層 は逆断層で、写真の左側の岩盤が右側の低い方に向かってずり上がっている。

  断層崖の下は湧水地となっていて、この  水を利用した伊勢並遺跡等の旧石器時代遺  跡が断層崖に沿って並んで分布している。  断層に沿って水が湧き上がってくるらしい   有名な御子柴艶三郎の井戸もこの断層崖  に掘られている。   艶三郎は井戸から水が出たら命を捧げる  との誓いを立て、完成した暁に夭折したと  伝えられている。
<参考文献> 地学団体研究会(1995)信州の地質めぐり,郷土出版社 松島信幸ほか(1993)伊那谷構造盆地の活断層と南アルプスの中央構造線 降旗和夫編(2001)改訂長野県地学のガイド 信濃毎日新聞社編集局編(1998)信州の活断層を歩く 中部建設協会(1984)天竜川上流域地質図 (宮坂 晃)
● もどる ●