上高地(2)
 上高地周辺には北アルプスの歴史を紐解く様々な地質体が現れていて、路傍の石や植物にも目を留めてほしい。


(左上写真)   日本に近代登山方法をもたらし、世界に日本アルプスを  紹介した英国宣教師ウォルターウエストン氏のレリーフ。  毎年このレリーフ前でウエストン祭が催される。   このレリーフがはめ込まれている岩体は滝谷花崗閃緑岩  と呼ばれている。この地域を詳しく調査された信州大学の  原山教授によって、この岩体が花崗岩質岩としては世界で  最も若い年代を示すことが明らかにされた。   普通、花崗岩は地下深く(地下3000m程度)で酸性のマ  グマがゆっくりと冷却して形成される。その後の地殻変動  によって花崗岩岩体が隆起して地表に現れるには何千万年  〜何億年もかかると一般的に考えられていた。   原山教授がこの岩体の年代測定をしたところ、約140万  年前という値が得られた。この間に地下3000mの岩体が現  在海抜3000mの山稜を構成している訳だから極めて短期間  に激しい隆起をしたことになる。  (左下写真)   滝谷花崗閃緑岩のクローズアップ写真。黒い有色鉱物  は黒雲母だけでなく角閃石も含まれている。
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 小梨平から数百m歩いた登山道沿いに穂高安山岩類(前穂高岳溶結凝灰岩層)の露頭が現れる。この岩石 が穂高岳の山体の大部分を構成している。ここで見られる石は石基中に白い斜長石の斑晶が目立つ安山岩状 の組織を持つ石であるが、名前のとおり、この石は火口から流れ出た溶岩(=火山岩)なのではなく、噴出 した火山灰が堆積してできた岩石(=堆積岩)だ。 前述の原山教授の研究によると、約180万年前(第三紀鮮新世)に穂高岳付近で大噴火が起こり、膨大な 量の噴出物が放出された後にカルデラが形成され、このカルデラ内を埋め立てた堆積物が穂高安山岩類だと いう。(左上写真)穂高安山岩類の露頭 (中上写真)前穂高岳溶結凝灰岩のクローズアップ  (右上写真)奧又白花崗岩を取り込む前穂高岳溶結凝灰岩
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 明神館付近までは登山道は真っ白な花崗岩のマサが続き、谷の上流から押し出されている礫も真っ白な花 崗岩だ。この花崗岩は奥又白花崗岩と呼ばれ、中生代末〜古第三紀に日本の各地で貫入をした花崗岩の一員 とされる。
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 明神館を過ぎると、美濃帯梓川層群の地層が現れる。中生代ジュラ紀に日本のはるか南の海洋底に堆積し た地層がプレートに乗って日本に運ばれ付加したものである。右上写真は泥質岩(粘板岩)であるが、花崗 岩の貫入により接触変成作用を受けて黒い水玉模様の接触変成鉱物ができている。  今回紹介した岩体を形成順に並べると、  「美濃帯の地層の付加→奧又白花崗岩の貫入→穂高安山岩類の噴出→滝谷花崗岩の貫入」 ということになる。
 河童橋と穂高連峰

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