川岸粘板岩・竜渓石(岡谷市・辰野町)

天竜川河床(岡谷市川岸)に露出する川岸粘板岩
 岡谷市の天竜川沿いには川岸粘板岩と呼ばれる泥質岩が分布している。河川から海(または湖) に運ばれた砕屑物(地表の岩石が風化・浸食を受けたもの)のうち、粒の大きさが小さいもの (1/16mm以下)が堆積したものを泥岩(mudstone)と呼ぶ。泥岩が地下で埋積圧を受けると層理面 (堆積面)に沿ってペラペラと剥がれる性質を持つようになり、このような岩石を頁岩(shale) (pagestone)と呼ぶ。頁は日本語でページと読み(漢字で英語読みするのはめずらしいと思うが) 紙が何枚も重なったように見える様子は、まさにpagestoneである。 この岩石が更に地殻変動によって高い圧力が加わると劈開面(スレート劈開)が発達し、緻密 で硬い岩石になる。このような石を粘板岩(slate)と呼ぶ。粘板岩の劈開面は圧力の加わった方向 に垂直方向に形成されるので、劈開面が層理面と一致するとは限らず、多くの場合斜交している。
  頁岩と粘板岩の違いは、厳密には、顕微鏡で岩石  の粒子が並び替えをしてるかどうか調べないと判ら  ないが、一般には粘板岩は劈開面に沿って粒子がつ  るつると滑って移動しているので頁岩に比べて石の  表面に光沢がある。   川岸粘板岩は緻密で硬いがスレート劈開はあまり  発達しておらず、粘板岩と頁岩の中間の性質だ。   ●写真左   岡谷市川岸唐沢の露頭


  粘板岩はその硬さや割れ方から、石塀や屋根  の瓦、硯(すずり)などに使われてきた。   硯は木造や金属製のものもあるが、ほとんど  は石である。なぜだろうか?  硯で墨をこすると、石の表面の凹凸によって、  また硯が削れて出た細かい粒子が研磨剤となっ  て墨が削れるのだ。従って、一つの硯を長い間  使っていると真ん中が凹んでくる。将に身を削  って墨を作っている。良い硯になる石は硬過ぎ  ず、柔らか過ぎず、程々の石が選ばれる。日本  で有名なのは宮城県登米町産(玄昌石)雄勝町  産(雄勝石)長野県岡谷市から辰野町に分布し  ている竜渓石(りゅうけいせき )、雨畑石  (山梨県)、那智黒石(三重県)などだ。これ  らのうち、定義どおりの粘板岩と呼べるものは  宮城県と山梨県産のもので、各々の石の年代は  宮城県産が古生代、長野県産が中生代、山梨県  と三重県産が新生代とされている。   竜渓石や川岸粘板岩は美濃帯に属し、中生代  ジュラ紀の地層である。     ●写真左上    竜渓石の採掘場(辰野町小横川)   ●写真左下    竜渓石    ここは美濃帯の中でも領家帯に近い位置な   ので低圧高温型の広域変成作用を受け緻密で   硬い石になっている。スレート劈開は発達し   ていない。 (宮坂 晃) 

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