木曽駒ヶ岳・千畳敷(駒ヶ根市・宮田村)

 長野県では南北方向に山稜が連なる北アルプス、中央アルプス、南アルプスの3山脈が雁行配列してい る。この順に南に下がりながら等間隔に配列する地形は構造学的に意味を持っている。  中央アルプスは文字通り3山脈の中央部に位置し、その山脈のほぼすべてが長野県内に、また地質学的 には領家帯に属している。地形的には北部・中部・南部に区分され、中央部に木曽駒ヶ岳(西駒)・空木 (うつぎ)岳・南駒ヶ岳・越百(こすも)山など2500mを越える山が存在している。
 (上写真)千畳敷カールからの宝剣岳(2931m)  中央アルプスにも他アルプス同様に、濃ヶ池カール・駒飼いの池カール・千畳敷カール・摺鉢窪カール などの氷河地形が知られている。これらのカールは第四紀の氷河期に4回訪れた氷期のうち最後のウルム 氷期に形成されたといわれている。カールはすべて東〜北東向きで、2700〜2600mに氷河によって削られ た岩塊が堆積してできたモレーンが見られる。これらのなかでも、千畳敷カールはその規模が大きく、氷 食地形の特徴をよく備えている。
(左上写真)天狗岩。遠方は三の沢岳。三の沢岳カールがこちらを向いている。 (右上写真)木曽駒(2956m)から南方を見る。木曽駒と中岳のトラバース道は周囲の岩が鋭く切り立ち、 アルペン気分に浸れる。岩には節理が発達しているのがわかる。
 木曽駒に登るいくつかの登山道のうち最もポピュラーなの は駒ヶ根市からケーブルカーを利用して登るルートだが、 バスターミナル付近には太田切花崗岩が、バスが登ってゆく 道筋には領家帯の変成岩類が、ケーブルカーの始発点である しらび平から上には木曽駒花崗閃緑岩が現れている。  領家帯は中生代ジュラ紀に日本に付加した美濃帯の堆積物 が白亜紀に高温低圧型の変成作用を受けて形成された。 領家帯には大量の花崗岩が貫入しており、周囲の変成岩と 調和的な分布をしている古期花崗岩類と、それまでの構造を 切って貫入している新期花崗岩類に大別されている。太田切 花崗岩と木曽駒花崗閃緑岩はともに新期花崗岩類だ。
(右上写真)木曽駒花崗閃緑岩。有色鉱物は角閃石及び黒雲母。無色鉱物は正長石、斜長石、石英。  木曽駒花崗閃緑岩は木曽駒ヶ岳を中心に直径約10kmの楕円形に分布する岩体で、周囲に熱変成を与え ている。中央アルプスはほとんどが花崗岩類から成るが木曽駒花崗閃緑岩はそれらのなかでも最も北に 位置し、時代も新しく、白亜紀末期の6500万年前に貫入したとされる。
(左上写真)ケーブルカーから見た花崗岩類を削る滝。急峻な地形にいくつかの滝が架かっている。 (右上写真)岩に張り付いているエビのしっぽ。外気温は2℃。     <参考文献>地団研松本支部 (1999) 信州の地質めぐり,郷土出版社          建設省天竜川上流工事事務所 (1984) 天竜川上流地質解説書, 中部建設協会 (宮坂 晃)

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