奈良井宿の石灰岩体
 木曽路奈良井宿すぐ南の奈良井川の河床には褶曲した成層石灰岩の地層が現れている。 飛騨山地南部梓川から中央アルプスの北部にあたる地域は美濃帯と呼ばれる中生代ジュラ紀に日本列島に 付加した堆積物から成っている。美濃帯は北東−南西方向の断層によっていくつかの細長い帯(コンプレ ックスとも呼ぶ)に区切られた地質構造をなし、奈良井付近に分布するものは味噌川帯と呼ばれる。  この地層は砂岩・泥岩を主とし、この中に玄武岩質溶岩やチャート、石灰岩などの異地岩体を含んでい て混在岩(メランジェ)と呼ばれている。チャート・石灰岩などは古生代末頃に日本の遙か南の海底に堆 積しプレートに乗って運ばれてきたもので、一方、砂岩泥岩は中生代に日本の海溝付近で堆積したものだ。 このように時代の違う岩体が混在しているのが付加帯堆積物の特徴だ。(白骨温泉の項を参照)  奈良井川や木曽川に沿ってはあちこちで石灰岩岩体が小分布しているが、他の石灰岩が塊状の岩体であ るのに比べ、ここのは成層しているのが珍しい。また、一部は石灰岩が方解石化している。
(上左写真)薮原のチャート層。奈良井断層によって粉砕されている。 (上右写真)方解石の結晶。こんなに大きく透明な方解石は日本ではほとんど取れない。これはメキシコ 産の標本。なお、白い方解石ばかりから成る石を「大理石」(結晶質石灰岩)という。  石灰岩は炭酸カルシウムを主成分としている。ここの石灰岩は炭酸カルシウムが結晶化し、岩全体が細 長い菱形六面体のチップを積み重ねた様に見える。炭酸カルシウムの結晶は方解石と呼ばれ、透明なもの は鉱物の光学的実験によく使われる。多くの鉱物は光が通過する際に複屈折という現象が起こる。方解石 は複屈折率が非常に大きいので、石を通して見た文字が二重に見える。  <参考文献>   日本の地質『中部地方T』編集委員会(1988)日本の地質4 中部地方T.                                (宮坂 晃)
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