大町市の常盤岩

 大町市の南部常盤の高瀬川河床には市の天然記念物指定を受けている「常盤岩」がある。近くの道沿い には案内板や説明版もなく少々心もとないが、焼却場を目印に河床に降りると見つかる。今にも白い河床 れきに覆い尽くされそうになりながら薄褐色の岩盤が小規模に現れている。これが「常盤岩」である。 川の砂利の中に基盤の岩石が出現したくらいで、どうして天然記念物になるくらいの重要な地質学的意 味があるのかというと、大町市の真下を、日本を二分する「糸魚川−静岡構造線」と呼ばれる大断層が通 過している。「糸静線」の西は古生代や中生代の古い岩体が多く、東側には新生代第三紀中新世(1500万 年前)以降の岩体が多く分布している。新生代中新世に日本列島を二分する大事件が起きたのだ。  さて、大町市は高瀬川からもたらされた膨大な砂利に覆われていて、「糸静線」の詳しい位置は判らな いままである。常盤岩の出現によって、その位置が絞られてきた。それは常盤岩が東側の大峰帯(新生代) の石なので、「糸静線」は、ここより西側に存在することを示しているのだ。

(写真左)河床に現れた「常盤岩」
  (写真右)常盤岩の近景。川の東側に現れている
大峰帯の凝灰岩と同じものである。
 高瀬川は槍ヶ岳に源を発し、北アルプス中央部を縦貫して大町 市に流れ出す。そのため、アルプスがどのような岩石からできて いるのか理解するのに都合がよい。常盤岩を観察するついでに川 原のれきにも着目してみよう。ここで圧倒的に多いのは白っぽい 石で、これはほとんどが花崗岩である。しかしよく見ると一口に 花崗岩といっても色の違いや組織の違いでいくつかの種類がある ことがわかる。 (写真左)表面が鉄さびでオレンジ色に染まった花崗岩と黄緑岩 (写真中段)左からピンク色のカリ長石が多い花崗岩(有明花崗 岩)、不思議な形の黒色包有岩を含む花崗岩、黒色包有岩を大量 に含む花崗岩(鮮新世に貫入した黒部川花崗岩) (写真下段)左から剪断された閃緑岩、斑糲岩、溶結凝灰岩。
<参考文献>   日本の地質編集委員会(1988)日本の地質T「中部地方T」,共立出版   長野県地学教育会(1989) 信州・大地のおいたち,信濃教育会出版部   信州理科教育研究会(1996)大地は語る,東京法令出版   信濃教育会(1953)信濃の地質見学の旅   信濃教育会(1967)信濃の化石採集の旅   地学団体研究会(1988)長野の地質案内   自然観察資料集作成委員会(1990)松本盆地のおいたちをさぐる,松本市教育委員会ほか    地学団体研究会松本支部(1995)自然ハイキング信州の地質めぐり,郷土出版社   信濃毎日新聞社編集局(1992)信濃すと〜ん記,信濃毎日新聞社                            (宮坂 晃)
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