地獄谷の噴泉(山ノ内町)
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渋温泉地獄谷の噴泉は昭和2年に国の天然記念物 に指定されている。長野県内の国指定天然記念物は 火山や温泉に関係するものが多いが、これもその一 つだ。 指定に係る経緯を書いた石碑は噴泉水が降りかか る場所に立ち、しかもあまり上手ではない日本語文 で書かれていて、付け替えた方がよいと思われるが 轟音とともに噴き上げる噴泉は一見の価値がある。  さても、その解説碑によれば、 「この地方は、今から約3500万年前、日本列島に 大きな変動があって、日本列島のまん中を横断する 大地溝帯ができた(現在の学説ではフォッサマグナ が形成されたのは約1600万年前ということになって いる。)・・・この地獄谷はこのあたりの温泉の熱 原となっているが、ここの噴泉は、岩漿から分かれ てきたガスが、温泉とともに非常な熱気をもって吹 き上げるもので、火山現象としてはきわめて珍しい。 噴泉は遠い昔から絶えず噴きあげてきているが天 明3年の浅間山大爆発のとき、一時とまったといわ れる。」  このように遠い場所で起きた地殻変動によって噴 泉が影響を受けるという記述が興味深い。噴泉水の 圧力は意外に弱く、写真の奥にある川の氾濫によっ て土砂をかぶっても止まってしまうのだという。
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 地獄谷ではあちこちから湯煙が上がっている。 この谷に露出する岩石はやや黄緑がかったヒン 岩で、新生代第三紀中新世末のものだ。温泉の 熱源はこの岩石の下に存在している閃緑岩であ ることがボーリング調査でわかっているという。  左写真は河床に現れているヒン岩。写真左側 の河原にある灰色の塊はみんな野生の猿だ。
 千曲川に沿って上田から千曲市、須坂市、山ノ内町、栄村と続く帯状の地域には湯の国長野県を代表 する温泉が多数分布する。この地帯は地学的には「中央隆起帯」と呼ばれる地質区と一致している。 中央隆起帯はフォッサマグナ区のうち、新生代第三紀中新世の終わり頃から隆起運動を起こした地帯 のことを指す。この隆起を起こしたのが地下からの大規模なマグマの上昇で、その後マグマはゆっくり と冷えて閃緑岩になったが、まだ余熱が残って温泉活動を起こしていると考えられている。
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 噴泉の近くに「地獄谷野猿公苑」があり、温泉につかる野生の猿がいることで有名だ。この猿はかつ て日本郵政公社が発行したふるさと切手第1号の図案になった。辺りには数十匹の猿が群れているが、 そのうちの数匹が入れ替わり立ち替わり温泉につかっている。
 猿など霊長類の生き物の仕種は何とはなく 「人間とは何か」を考えさせるので面白い。  湯上がり後の毛繕い3連発。 最後の一匹は独自行動か・・
<参考文献>                              信濃毎日新聞社編集局(1992)信濃すとーん記, 信濃毎日新聞社   地団研長野支部(2004)長野の大地−見どころ100選−, ほおずき書籍 降旗和夫(2001)改訂 長野県 地学のガイド,コロナ社 (宮坂 晃)

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