白骨温泉一帯の地質
 松本から上高地に向かう道は主に美濃帯と呼ばれる地質区を通る。美濃帯はかつて日本のはるか南の海 底にあった火山岩や地層がプレートの動きによって日本付近に運ばれ、海溝において日本列島の乗ってい る陸側のプレートに「付加」したものだといわれている。美濃帯の地層の基本的な順番は、  1.海底に噴出した溶岩(古生代の終わりころの二畳紀)<下図の紫色>  2.火山島の上に形成されたさんご礁(石灰岩の地層)(二畳紀)<下図の灰色>  3.深海底の堆積物であるチャート層(二畳紀〜中生代の初めのころの三畳紀)<下図の緑色>  4.日本の近くの海溝付近において堆積した砂岩泥岩(中生代の中頃のジュラ紀)<下図の黄色> となっていて、1→4の順に重なった堆積物が、付加する際に掻き回されて時代の違う岩石が渾然一体と なって存在しているのである。このような堆積物を「メランジェ」という。また、この堆積物は逆断層に よって何回も繰り返し現れ、断層間の地質帯を「ユニット」とか「コンプレックス」と呼ぶ。

  上の図は、1〜4を模式的にあらわしたもの。左図は海洋底堆積物が海溝か ら沈み込む際に陸側プレートに”剥ぎ取られ”て、メランジェとなった状態を 表す。ジュラ紀の砂泥互層中に古い時代の堆積物がブロックとして取り込まれ  ている。
 松本から上高地に入るには沢渡  (さわんど)で許可車に乗り換える  必要がある。この沢渡から南に乗鞍  高原に抜ける道があり、途中に白骨  温泉がある。 このルートは、美濃帯の堆積物が よく観察できる。   写真はメランジェ堆積物。  シェアされた(ペラペラに剥がれる  性質を持った)泥岩中に様々な大き  さと種類の岩塊が取り込まれている 沢渡付近の湯川河床で撮影。横幅  が30cm程度。
白骨温泉に向かう途中で出現する 溶岩層。   溶岩は玄武岩質で、海底で噴出し たため、枕状となっている。一つの  「枕」の大きさが30cm〜50cm程度で  ある。
  白骨温泉は、二畳紀の石灰岩岩塊  中に湧き出している。従って温泉水  は白く濁っていて、温泉の名前の由  来となっている。   ここでは温泉水が石灰岩を溶かし  独特の地形を作り出している。   写真は、白骨温泉で見られる石筍  で、高さが1m程度ある。
  同じく白骨温泉で見られる天然の  トンネル。湯川が流れるトンネルの  上盤は、温泉水で溶かされた石灰沈  着成分(石灰華)が再堆積した地層  からなる。
白骨温泉から乗鞍高原に向かう道  沿いには連続的に石灰岩が露出して  おり、この石灰岩中に古生代二畳紀  に棲息したサンゴ・ウミユリ・フズ  リナ・鮮虫類・二枚貝などの化石を  大量に含んでいる。   写真は露頭で撮影したウミユリの  「茎」の部分の化石。ウミユリは棘  皮動物といってヒトデやウニと同じ  仲間である。写真の横幅が10cm程度
  石灰岩中に見られる「スリッケン  サイド」   断層ができて、岩盤が互いにずれ  る際にずれた方向に傷がつく。これ  をスリッケンサイドという。この断  層は水平にずれたことがわかる。   峠を登りきってトンネルを過ぎる  と石灰岩の次にゆるく褶曲した縞状  チャート層が現れ、その次に砂泥互  層が現れる。

 <参考文献>   田中邦雄監修 (2001) 改定 長野県 地学のガイド,コロナ社 大塚勉 (1999) 信州シンポジウム巡検案内書 地学団体研究会松本支部編 (1995) 信州の地質めぐり,郷土出版社    (宮坂晃)
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