松川渓谷に沿って(高山村)
  志賀高原の渋峠付近に源を発する松川渓谷は、三国一と言  われる秋の紅葉で有名だが、地学的にも面白いものがいろい  ろある。   渓谷にはいくつか滝がある。非常に深い渓谷のため、渓谷  の両側はきわめて急峻で、支流の川が滝状になって本流に落  ち込むのだ。   (左写真)「八滝」。8段の滝のように見えることから名  が付いたという。斜面はほとんど垂直であることがわかる。   (下写真)雷滝   長野県に滝はいくらでもあるが、滝の裏側に回って見られ  るというのは珍しい。別名「裏見の滝」とも言う。  左写真は表側、右写真は裏側から撮影したもの。
 雷滝へは駐車場から急な階段を降りていく。すると次第に轟音が大きくなってくる。周囲が岩盤に 囲まれていて音が外に逃げないのだろう。「雷」の所以だ。滝の高さは28mあり、大音響とともに 滝つぼに水が落ちるさまは迫力がある。  雷滝の周囲には緑色〜茶褐色に変質した凝灰角礫岩が現れている。これはいわゆるグリーンタフと 呼ばれるもので、新生代第三紀中新世に海底に堆積した火山噴出物だ。  正面から滝を見るためのベランダまで行く途中のがけに南に急傾斜した断層が見えている。断層粘 土が10cm挟まれ、比較的大きい断層だ。この断層の方向に松川が流れていることから松川渓谷が断層 線谷であることがわかる。(右上写真の観光客のすぐ右横に断層が見える。) 滝の裏側のノッチ状の凹み(通路になっている)は自然にできたもので、松川が侵食をする際に柔 らかい層が差別侵食を受けたものらしい。

  松川渓谷を有名にしているもう一つのものが 温泉だ。直線状に4つの温泉郷がある。  そのうち最も奥に位置するのが秘湯七味温泉だ。   七味とは昔源泉が7つあり、これを混ぜて使  ったことに由来すると言う。それぞれは無色の  源泉同士を混ぜ合わせるとさまざまな色になる  というから不思議だ。淡い黄色みがかった乳白  色、黒っぽい色、エメラルド色、灰色・・・  混ぜ合わせることによってコロイドの状態が変  化したり、何か化学変化が起こるのだろう。   硫黄分が強く、温泉を上がって1日経っても  体中が硫黄の香りがする。温泉成分は測定者に  よって異なる。含食塩石膏硫化水素泉、含硫黄  -Ca-Na-硫酸塩泉、含砒素硫黄Ca-Na-SO4  (硫化水素型中性低張性高温泉)などの報告が  ある。   松川は河原の石が真っ赤だ。上流の鉱山跡か  ら流れ出る強酸性の水のせいで、酸化鉄が石に  こびりついている。(七味温泉横で撮影)

● もどる ●