天竜川を挟んで阿南町・泰阜村付近には富草層群と呼ばれる第三紀中新世(1600万年前)の
海生層(一部陸生層)が分布している。富草層群は基盤となる中生代の花崗岩(領家帯)の上
に不整合関係で乗っていて、分布も狭く地層も薄い(500m程度)が、多種多様な動植物化石を
含むことでよく知られている。長野県下では中新世の化石産地はフォッサマグナ区に数多く存
在するが、富草層群以外では絶対に見ることのできない化石が産出している。
富草層群と同様な地層は瑞浪層群(岐阜県)、設楽層群(愛知県)、鈴鹿層群(三重県)、
神戸層群(兵庫県)、備北層群(岡山県)など、東西方向に500km、幅150kmにわたって並んで
分布しており、現在の瀬戸内海のような浅く、周囲が陸地に囲まれた海が存在したと考えられ
この海を古瀬戸内海(第一瀬戸内海)と呼び、そこに堆積した地層のまとまりを瀬戸内区と称
している。富草層群は瀬戸内区の最東端の地層である。古瀬戸内の海は暖流系の化石を産する
一方で、同じ頃に存在したフォッサマグナの海は寒流系の化石を産出する。このことから二つ
の海は連続していなかったと考えられている。
阿南町の富草周辺からは特に大量に化石が産出し、旧富草中学の生徒と職員および住民が採
集した資料を集めて昭和52年に化石館が設立された。館内には産出した膨大な化石の展示をし
ているだけでなく、化石に興味を持ってもらうための各種イベント、産出した化石の学術研究
などが行われている。
ここの化石館は、まず化石や地学の勉強をしてから来館することをお勧めする。実物を見た
ときの感激が数倍異なることだろう。また、受付のおばさんは単に化石に詳しいだけでなく、
化石が産出した経緯や地域の歴史も教えてくれて、まさに「語り部」である。
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