プロローグ





 何処かの会議室だろうか・・明りの灯った部屋で会議が行われている様子である



「・・・・で 君はどう思うのかね?」

   
 長く沈黙が続いていたのであろう、
一人の恰幅の良い男が
自分の対頂にいる男を指差した



「私としてはNTの戦争利用価値は絶大ですから何としてもNTの確保に
乗り出すべきかと思います」

     
指を指された男は自身有りげに言った


「我々もそう思っている、だが・・その確保が難しいのだよ
特に地球にいるNTは・・・そうだろう、アイムザット君?」


 アイムザットと呼ばれた男は幾分戸惑っている様子だった、
若干21歳のエリート仕官である彼も流石にこの重要会議での発言は
予測外だったのだろう

 
「・・ハイ、無理やり連れて来ると言う訳にも行きませんし
連れて来た所で逃亡を図るかもしれません・・それに・・・」


 ここまで言って彼は席についた これ以上の進言は自分を危うくすると
言う事に気が付いたようだ。


「やはり君もそう思うだろう?・・どうやって連れて兵役に着かせるか
それが問題なのだよ・・・」


 円卓のあちこちで小さな論議がしばし続いた。


「埒があかんか・・・そっちの次世代MS開発の方はどうなっているかね?」

 
 男はアイムザットの左隣にいる女性に向かって話し掛けた、
その座っている姿1つにしてもやり手であると言う事は明らかだ。


「私共の方で開発をしているフラッシュシステムを搭載した
実験機がほぼ完成した状態です、他にも実験機を数機建造中です。」


 彼女の瞳は話し掛けた男を一寸にみつめている。
何処か引き込まれそうになるそんな瞳だ



「うむ、そちらの方は問題なさそうだな・・・
フラッシュシステムについては承知しているが
その他の機体は何の為に?」


「一機は撹乱用の為に変形機構を搭載した機体
一機は現在最も有効なビーム兵器を搭載した機体
そして突撃、接近戦に特化した機体・・・以上です。」

「成る程・・・それでマイクロウェ―ブ送電施設を利用した機体の方は
どうなっているのかね?」

「それが・・・何機か試作機を作ってみたのですが
通常の電力送信は問題無いのですが、機体となると・・・
今後も実験は続けていきますが」


「解かった、せっかくの送電施設だしな、それにあそこには
解体したファーストニュータイプもいる。兵器利用には何の問題も無いからな
利用するだけしなければな、資金面については今後も最大限の援助をしていく」

   
「有難う御座います、司令」
 
 
「失礼ですが・・・議題を元に戻されては如何でしょうか?」

 
 その言葉を発したのは他でもないアイムザットである
彼は苛立つと場の空気という物を忘れる特性があるらしい
大きい声でハッキリとした声で言ったので当然視線が彼の方を向く
気がついた本人は強い後悔を浮かべた顔で腰を下ろした。

「アイムザット君、口を慎めたまえ、君がここにいられるのは只の偶然であって
君の能力では無いのだよ?しっかりしてくれたまえ」
 
「幾らエリートだからって、調子に乗らないでくれよ
余計な進言は君の未来を潰す事になるんだぞ?」

 当然とも言える声が机の右左から聞こえてきた
解かっていたとは言え言い過ぎたと、或いは自分の昇進の機会を逃した
そう思っているのかも知れない
  
「確かに、少し度が過ぎてはいるが論外と言うことでもない議題を戻すとしよう。
現在地球域、或いは連邦域コロニー内に存在すると思われる
NTを確保すること、そして覚醒させ我々の戦争勝利の為に利用する
その為に要求される作戦行動をそしてNTの扱いについて議論している時だったな、
研究所には何人収容している。カロン君?」


 この男恰幅だけではなく指導力もあるらしい、
それだけの威厳と厳格さが見て取れる。


「現在我々の方で扱っているNTは2人ですが・・・
これからも増える事を予測し受け入れ体勢は整っています」
  
   
 眼鏡を掛けた女性が言った。

   
「既にNTと思われる男女を地球共にて2人発見しています   
1人は民間人ですが・・もう1人は政府高官の娘のようです」
 
「ほう・・・で、名前は?」

「女の方はフィ・デ・ギレオレ、
男の方はジャミル・ニートと聞いています。」
 
 そう言ったのはアイムザットだ
どうやら諜報機関系に所属しているらしい。
先程の事もあってか幾分控えめな様子だ
 
「和平派政治家の娘か、親の名は聞いた事はあるな
戦争とは不思議なものだ、平和と言っている家の家系から
戦その核心たる人物が出ようとはな」 

「コロニー側にも幾人かいると推測されていますが現在調査中です
申し訳ありませんが今しばらくお待ちください」

「承知した、ではニュータイプ捕獲の為の具体的検討に入るとしよう
捕獲の手段について選ぶ必要は無いが充分に検討せねばな」


そう言うとその男はゆっくりと席を立った。
杖を突きながら退出する彼をその場にいたザッと靴の音を立てて全員が起立、
敬礼しその場から見送った 
彼の名は「フィックス・ブラッドマン」、連邦軍戦略部隊の総司令官である。


時にB.W.0003の暮れ、
戦争終結まで後2年余りである。