第四話



 物々しい警備と言う事だけはこの無音の宇宙でもハッキリと解かる
絶え間なく動き続けるMSの数は数える事はまず無理である。これに加え
小隕石に偽装した無人カメラがこの宙域一帯に目を光らせている。

 その宙域の中心にそれはある、コロニー国家クラウド9。第七時宇宙戦争の
起こりと言われている場所である。過去6度の戦争を起こし今もまた。
彼等の願いは一つである、地球からの「独立」ただそれの為にこれまでの戦いを
繰り返し続けてきた。何も学ばなかったと言えば勿論嘘になる
これに至るまでに出来うる限りの外交を展開し平和的に独立を果たしかった
これが本音である。だがどの手を用いてもある部分から先へは進む事が出来なかった
圧力の一言で片付ける事には足り無すぎる力が働いていた。
その末に過去の戦争に対する贖罪と言う名目で示されたそれは
コロニーの永続的な地球域への隷属を示すものに他ならなかった。
これに対しクラウド9総統エスト・エルムーラは敢えてこの戦争を選択した。

 開戦の前に高らかに宣戦布告を行い「何のために戦うのか」それをクラウド9
いや全コロニーに向けて発信した。そして電撃的な奇襲攻撃と同時に一部のコロニーを
除き不可侵条約並びに通商条約を結ぶ事で宇宙対地球と言う壮大な戦争に拡大さえた
無論戦っているのはクラウド9一国だけである、だがその背後を無数のコロニー国家が
支え共に独立を唱えている。出来うる限り犠牲を出さず素早く戦争を終結させ、独立する。
コロニー側の意識は統一されていた。ただ抑圧と言う政治を行ってきたそれは
この戦争でも武力を背景にコロニーを抑圧それに屈したコロニーも確かに存在する。
連邦側に付くコロニーもある。対立とは実に多くの場所で起きる物だ。



 その日もまだ朝も間もない街道をブラウンのスーツを着た男が一人、のんびりと歩いている
右手にはスーツカバン、日差し避けの帽子を被り手を当てながら上を時々眺める。
地味な格好ではあるが着こなされている、周りに人影はない。今日もSP達を撒いてきたのだ
ニヤリと笑うその顔はイタズラをした子供の表情によく似ている。車を使わないのは
健康の為、脚がなくては生きてはいけないしのんびりと景色を眺めたい。一人で行くのは
自分を特別視されるのは嫌いだから。恥ずかしやがりやで無邪気な子供でもある彼は
今日も街道を歩き続ける。思えばこの外では兵士達がここを見張り或いは戦って
命を散らしているのだ。悲しむべき事である、これを指揮しているのは自分だから
責任は間違いなく私にある。一度始めてしまったら終わりがくるまで決して止められない。
その罪は果てしなく重い。せめて一刻も早くこの戦争をやめなかればならない、双方が納得する形でだ。



 先回りしていたのか会議場前には黒塗りの車が何台も停車している。彼らも多少諦めているようだ
行くコースも時々でマチマチ出発時間も大分散っているし何より本人が要らないと言っているのだ
最低でも会議前からは護衛しなければならないがそれより前は彼らにとってもフリーな時間
煙草をプカプカ吹かしたり家族と少しだけ長く過ごす、おおよそ一国の長をガードする者とは
思えないがこれこそが本来の姿だと言って笑顔で返す。そんな総統を全員が誇りに思っている。
 苦笑する総統の周りをガッチリ固めいよいよ今日の仕事が始まる。戦時中にも関わらず
統制などは最低限に留められており今日もマスコミのフラッシュが四方から焚かれる。
正面を向き横を素通りしていく。その姿は総統と言う名に相応しい威厳を放っている。


 
「ふぅ・・・」

 軽い溜息をついて一番奥の自分の席に付く、まだ他の閣僚は揃っていない、なにせ定刻まで
20分近くもあるのだ。到着する時間に合わせようとしてもその時間の20分前には大抵席に付いている。
そう言う訳で彼が一番最初に席につき皆を待つといった感じになってしまう。
 入ってくる閣僚にその都度頭を下げ朝の挨拶をする、そう言う事をしている内に全員が揃った、
本来の時間の10分ほど前であるが、善(とは言えないが)は急げと言う言葉もある。
周りに目を配った後スッと立ち上がり、最初の一言を発した。

「さて、おはよう諸君、定刻前だが会議を始めよう」

「おはようございます、相当閣下」

 タイミングは違えども同じ言葉を一様に発する。

「まずはこの戦争のために散っていった数多の例に対し哀悼の意を表し
一分間の黙祷を捧げたいと思う」

 彼はそう言うとゆっくりと瞼を閉じた、瞼の上から来るわずかな光を感じながら
今はもういない同胞の死、そしてかつての友人たちへ追悼の気持ちを投げかける
戦争をしてもしなくても後悔は避けられない、ギリギリ最後の選択だった。

「では始めよう、資料を頼む」

「はい、総統閣下」

 進行役を勤める秘書官が手元のボタンを押す、すると机の正面に見事な地球とコロニー、そして月を
表した地図がその姿を表した。
 
「ふむ・・・コロニー封鎖の調子はどうかね?」
 
「はい、軍艦を始め輸送船まで封鎖中のコロニーに近づく艦には撃墜、或いは鹵獲行動をとり続けています、
言われた通りに封鎖中のコロニーにも食料は送っています、地理的に遠いコロニーは
既に連邦側の援助も届かず、途方にくれている状態のようです」

 答えるのは穏やかな感じを受ける老仕官である。その瞳は目で見る事は不可能だが
確かに爛々と輝いている。

「成る程・・・援助を受けていないコロニーにそろそろ仕掛けるべきか・・・
時期については検討しよう、相手さんからくれば問題無いのだが・・向こうもメンツがあるだろうしな」

「解かりました、総統閣下」

「地球降下部隊の具合はどうかな?」

「はい閣下、前回の会議と同じく睨みあいが続いております、ですが燃料、弾薬は事足りますが食料が
尽きてしまうと・・・次回降下は何時ほどに?」

「出切る限り早期にやって行きたい、恐らく地球側のレジスタンス・・・いや同士
と言った方が正確か、彼等の支援と同時期になるだろう守りも固められるしな」

「私からも何卒宜しくお願いします」

「わかっている、一国の長が国民を見捨てるなどあってはならない事だ、早急に手配しよう」

「戦略部隊のほうは?」

「はい、現在の所連邦軍側の戦略に対して大きな変化は見受けられませんが
そろそろ備えが必要な頃かと思われます・・・昨日もMAが一機が撃墜され
MS運用部隊にも変化の兆しが見え始めました」

 そう言いながら手持ちの資料をパラパラとめくる、ページのいたる所に
チェックが入れられ更に書き込みがされている。

「・・・由々しき事態だな、物資の締め上げを強化が艦船の生産を低下させ
その分MSへ移ったか・・・・何にしろ戦略の見直しが必要だな」

クラウド9は外見上大砲巨艦主義を貫いているのだ、
確かにMSは圧倒的に有利な兵器ではある。
だがそれは敵にとっても同じ事であり、いざ決戦となれば
分がいいとは言い切れない、故に敵に真に有効な手に
気づかせない手が必要になってくるのだ、それがこの戦法である。

「閣下、そうは言いましても予想された事態です。既にMSの生産ラインは確立され、
次期主力機や巨大MAも生産中です、気を弱く持たずに」

「解かっているよ、だが「慢心が綻びをうむ」とはよく言ったものだ
よく議論をせねばな、それに条件としてはこちらの方が厳しいのだよ」

「心得ております。生産台数の上昇と調整を急がせましょう」

「それが良いな・・・次に国内情勢を」
                      国内総生産
「やはり国内はインフレ気味ですが・・・それでもGDPは上昇しています、
国民はよく働いております、これも閣下が大儀をお与えになったためかと」

「よしてくれたまえ・・・人は何かしら目標を欲している、私はそれを与えただけだよ」

 自嘲気味にそう答える、確かにそうであり、そうではないかも知れない
ただ国民の士気は確かに上がっている。それに伴う技術確信も順調である
悲しいかな戦争とは技術を飛躍的に上昇させる物である。
ABC兵器にしろMSにしても叱り。

「最後になるが・・・ザイデル君、宇宙軍の具合は・・・とは言っても随分
暇を持て余させて悪いが・・・」

「これ以上の軍縮は願い下げですな総統、コロニー封鎖だけでは仕官は納得しませんぞ?」

 機会を待っていたとばかりに一気に喋りだすザイデル・ラッソ宇宙軍総帥
彼にしてみれば、いや一般常識として勝ってこそ勝利でありそれ以外は勝利ではないのである。
敵を徹底的に叩きその後に待つ勝利へ突き進む、停戦協定も勿論考えている
だがあくまで連邦からの要求に応じるのであって、こちらから持ちかけるという事はしない
第一自分たちから仕掛けておいてこちらから協定を持ち出すのは普通では無いし、
頭を下げ停戦に持ち込めてもまた隷属を示されるような事になりかねない。

「解かっているよ、だが現状ではの話だこれから必要になる可能性も充分にある」
                木星派遣艦隊
「可能性では困りますぞ、閣下、近くJDFも帰還します、それを是非とも迎撃させて下さい」

「それはならんな、確かに彼らが連邦側に味方しているのは事実、だが彼らを墜として
得られる利益などたかが知れている、それに彼らもある種のコロニー市民だという事を
忘れないで頂きたい」

「閣下、承知はしていますが敵を目の前にして逃がせというのですか?納得が行きませんぞ」

 声を荒げて反論するザイデル、対してエストの方は冷静で受け流しているといった印象さえ受ける。。

「なに、燃料以外の物資はことごとく封じているのだ、燃料だけでは何も出来んよ、それに
わずかながらこちらにも回って来ているのだよ」

「ですが・・・それでは」

「軍事力はいわば最後の切札だ、いざとなったら頼む」

「くれぐれもお願い致しますぞ・・・」

「うむ、それぞれの具合はこんな調子だ、では詳しい議論に入るとしよう」


 それから暫し拿捕した敵艦、捕虜の処遇や、MSの運用を含めた戦略について議論が行われ
昼前に終了、その足で記者会見に臨む。


「今回の議論の結果は?」

 記者の一人がそう切り出す、既に相当量の記者がおしかけ会見場はごった返している
チェックはしているがこの中に一人はスパイがいるだろう。

「特に変化はありませんが」

「では、侵攻は続行すると、そう言う訳ですね」

 別の記者がそれに答える、記者の年齢人種も実に様々である

「そう言う事になりますな、ただ和平交渉は打診していくつもりですぞ」

「その事については毎回言っておられますがどうも我々には理解出来ません
仕掛けておいて先に停戦合意を結ぼうと言うのは」

「では聞くが、この戦争の目的は何かね?」

「それは、我がクラウド9を独立させる事であります」

「そう、それで良い。私達が望んでいるのはそれなのだよ
それ以外にこの戦争を続ける意味はあるだろうか、いやない
それさえあれば良いのだ無駄に血を流す必要がどうしてあるだろうか」

「しかし、それでは死んでいった同胞に示しがつきませんぞ」

「解かっている、我々は死者に対して哀悼の意を表する事しか出来ない
だが、彼等は決して無駄死に等していないと、そう思う必要があるのだ
彼らが望んでいたのは平和、つまり独立、その為に死んでいったのだ
それ以上の血は彼らも望んでいない、そうは思わないか?」

「つまり彼らに恥じぬ戦いをしろとそう言う訳ですね」

「そう言う事ですな、何度も言っている事ですが我が国に勝ち目は無いと言う事を
理解して頂きたいのであります」

 柔軟な中に独自の硬さを持ち、折れる時は折れ折れぬときは柔軟に対応する。
そんな手法を用いているのだ。結局武力で打ち負かしてもそれが新たな火種となるならば
その芽を摘み取らなければならない、

 会見も手短に済まし昼食を取る、この後は軍事施設の視察に赴く事になっている
流石に記者を入れることはしないが自分よりずっと若い者が最前線で闘っているのだ
時代が望んだのかは解からないが彼自身嫌悪している事でもある。こんな事は大人の
それも一部だけでやれば充分なのだ望まぬ物若い者には辛すぎるし私自身納得しないだ。
大方食べ終わった所で秘書官が電話が来た事を伝えてくれた、間違いなく妻からだ
毎度の事だが時間はかなりあるそれでも行けと言うのだから仕方が無い、さっさと食事を済ませ
車に乗り込む、朝ほどとは事情が違い前後左右どこからの襲撃にも耐えられるようにガードが
固められている。私は一国の主席であるから当然と言えばそうかも知れないが一般の国民も
国民である、代表だから守り他の国民は守らないと言うのはいささか奇妙ではある。
自分の視界を過ぎ去っていく幾つもの工業地、どの工場もフル回転であると聞いている
成る程煙はもうもうと立ち上がっているし用地内を移動する人の数もかなりの数である。
何を目的に戦争をして何を勝ち得るか、衝突で負けても独立できれば勝ち、衝突をしなくとも
独立できればこの戦争には勝った事になる。

「彼は・・・どうしているだろうか」
 
 ふとそう思う







「せんぱーい!!!」

 タラップの上から響き渡ったその声はこのハッチにいた全員に間違いなく聞こえているであろう
その声を溜息をつき手を額に当てながら聞く彼、ランスロー・ダーウェルの姿が在った。
 
「お前も大変だな」

「同情するならお前も一緒に来てくれよ」

「俺はどうせ見えちゃいないさ、お前にゾッコン気味だからな」

 苦笑いしながら受けるのはクドゥ・オブスカートゥ、彼の同僚であり友人であり仲間である。

「よしてくれよクドゥ、頭が痛くなる」

「たまにはそう言う気分も良いかも知れないぞ?」

「やれやれ」

 彼の気分は暗雲の如く憂鬱である。それに対し上から響いてくる
ラブコールは青空如く済んでいる。彼女の手の振る姿が見える、誰からも
嫌そうに見えるように手をブラブラと顔の前で振ってみせる。
それに対してでさえ嬉しそうな声が響き渡る。深い溜息を付くランスロー

「今行きますからねっ!」

 まだ叫び足りない様である。その勢いで近くにあるスロープに飛びつきザーッと滑り降りる
軍手が滑るのかそもそも重いのかかなりのスピードで降下しそのまま・・・


「いった〜い!!」

 尻を強打したのか大分痛そうである、流石に心配になる、流石に気になり慌てて駆け寄る2人
その姿に気づいていないのか項垂れながらお尻の所をさすっている。

「大丈夫か?リーネ?」

 明らかにサイズオーバーの作業着に帽子と言う典型的な整備員服、薄く紫がかった髪
髪をはじめ体の至る所に機械油が付いている。見た目は確かに変である。
いや中身も相当変と言うべきか。

「ううっ・・・痛かったです、先輩!!!」

 言うが早いがいきなり飛びついてくる。そのスピードはその体勢から
動けるスピードではなかった、がランスローの方が少し勝ったようだ。

ザザーッ

 そんな音が聞こえてきそうなほど勢いよく床を滑る
本人はもう泣きそうである。

「せっ・・・先輩・・・酷いじゃないですか!」

 悔しそうな憎いようなまた微妙な顔を向ける。
呆れ果てるばかりのランスローの肩をクドゥがポンと叩く。

「やれやれ・・・クドゥが押したんだよ、ああそうさそうに違いない」

 誰の目から見てもランスローが一人で勝手に逃げた事は明白である。
これを信じるのはもうかなりキテいる証拠だ。

「クドゥ先輩まで・・・酷い!」

「俺か!?ま・・まて!!」

「もーうっ、バカバカバカ〜!!」

 そう言いながらポケットからスパナを取り出し襲い掛かってくる
交わすのは容易ではあるが流石に相手にする勇気はない。

「そっ・・・それよりなにしに来たんだ?」

 慌てて話題を反らしその場を乗り切る事にしたクドゥ、
対して彼女は少しの間考えてポンと手を叩いた。

「今の会見見ましたか?」

「そんな事かよ」

 2人の声が見事にハモる。義務付けられてはいないものの
会見を見る事はもはや一般常識となっている。話が理解しやすいのも
よく見れる一つの特徴である。

「そうなんですか!?、今日また閣下に合えるんですね〜」

「ん?またって前に会った事あるのか?」
 
 クドゥがそう聞き返す、少なくとも自分は今回が始めてである。
記憶が飛んでいなければの話ではあるが。

「はい、特国家試験授与式で・・・私の証明書にもちゃーんと閣下の名前が入ってますよ」

「そっかぁ、お前見かけによらず結構凄いからなぁ」

 それは事実である。恐らくこの年齢でMSそれも微調整が不可欠なNT用
MSを扱えるのは多分彼女だけだ、少なくともこの隊には彼女しかいない。

「そんな事無いですよぉ、私なんて全然ダメですから〜」

「そんな事は無いと思うがなぁ、整備の方助かってるぞ、いや本当に」

「てへへ・・・良いんです私に出来る事なんてこの程度の事しか出来ないんですから
それに先輩のお役に立てて嬉しいんですっ」

「その先輩ってのは好い加減やめてくれないか・・・同期なんだし」

 応えるのはランスロー確かに年齢は上ではあるが、入隊試験を
受けたのは同じ日でもある。

「何言ってるんですが、先輩は先輩じゃないですか」

「そう言う事じゃなくてな〜」

「何が違うんですか?」

 全く噛みあわない、結局折れるのは何時もランスローの方だ
クドゥはそれほど気にはならないらしい。それは今日も同じである。

「もう良いよ」

「大変だな」

「だから何がですか〜?」

 しつこい事この上ない。

「もう良いって・・・言ってるだろう?」

 地の底から込み上げるような声で応戦するランスロー
恐ろしや、恐ろしや。

「はっ・・はい〜」

「あっ、クドゥ先輩、大方の調整が終わったので後で微調整に
つきあって下さいね」

「ああ、わかった」

「言っときますけどデートじゃありませんからねっ」

「んな事はわかってるよ」

 余計なお世話である。 

「あうぅ」

「はぁ・・・で何時が良いんだ?」
 
 本当に疲れる。

「そうですね、今3機やってるので・・・明日の朝一番で」

「解かった、けど大丈夫か?そんなにやって」

「大丈夫です、今から徹夜でやれば〜」

「・・・これから閣下が来るんじゃなかったのか?」

「あっ・・・」

 腕は確かではあるが流石に心配になってくるのが人情という物だ
本当に大丈夫なのだろうか。

「馬鹿だな・・・どうするんだ?」

「なんとかなりますよ、あはははは」

「俺疲れた・・・・」

 それとなくランスローが呟く。

「本当に大丈夫なんだろうな?時間ずらしても構わないぞ」

「あっ、それじゃあお昼頃に・・・それまでには終わらせますから」

 悪びれた様子も無く照れながら手を合わせるリーナ
嫌とは言わせないといった雰囲気が出来上がっている。
そもそも断るつもりなど無いわけだが。

「わかったよ・・・シッカリしろよ?」

「ハイ、あっお腹空いちゃいました、ご一緒しません?」

「俺は別にいいけど。ランスロー、お前はどうする?」

「どの道行かされるんだろう、行くよ」

「ありがとうございますっ先輩ッ!!」

 2人の腕にガッとしがみ付く、慣れてはいるが何時もにもまして
急の事だったのでバランスを崩しよろける、その様子を嬉しそうに見ながら
2人の間を元気よく駆け抜けていく。
 
「先輩、はやくしないと置いてッちゃいますよ!!」

「わかったわかった」 



「あのさ、ランスロー」

遠目になって行くリーアを身ながらクドゥが問い掛ける。

「なんだ」

「俺たちあの子に悪い事してるなぁって思うよ」

「それは・・・そうだな」

 何を言っても彼等は戦場に出ているそれは即ち
人を殺すという事だその後ろにあって一番近いのは
整備班である、彼らなくしてMSは鉄の塊に過ぎない
つまり彼女のしている事は人殺しに相違ないのだ。

「あいつ・・バカだから、バカだから・・・」

「ああ・・・見えていないのか見ようとしないのかは解からないけれどな」

「一人殺せば殺人で100人殺せば英雄か」

 突発的に思い出したのは、チェールズ・チャップリンの台詞である。

「そんな英雄にはなりたくないな、普通の人で充分だ」

「俺もそうさ」

 少なくとも彼等は英雄になりたくも無いし、
出切れば殺人もしたくないのだ、それは全く確かな事だ
しかしそれでも斧を振り下ろさねばならない
もう止める事は出来ないのだ、ただ今を後悔し明日を後悔するしか
無いのである。

「何にせよ、早く終わらせないとな」

「ああ、早くな」

「先輩達なにやってるんですかッ!早くしないと閣下が来ちゃうじゃないですか!
早くしてくださいよっ、あっ!!」

 2人の会話など知る由も無く無邪気に声を投げかける
勢いよく回りながら声を発した為か足がほつれ
弧を描きながらパタッと倒れる、拍子にポケットも
開いたのか、MS整備の一体何処に使うとも知れない
大量のボルトやネジが辺りに散乱する。

 やれやれと言った顔でお互いを見て、声をかけながら
近づき片づけを手伝う、しかしその量はポケットから溢れてしまっても
何ら不思議ではない量である。一体何処に隠し持っていたのだろうか。


「てへへ、すみません、先輩」

「なに気にするなよ、仲間だろ?」

 最初に返すのはクドゥ、ランスローが言わないのは
彼が言う報復攻撃が怖いらしい。 

「そうだな」

「はいっ!、それじゃあ行きましょうか」

「すっかり時間喰っちまったな」

「まったくだよ、まだ時間はあるけど、もう見えるかもしれないな」

 心なしか声が頼りないランスロー。
さっさと食堂へと向かおうとすると。

噂をすれば影とやら

「総統閣下来訪ッ!!!」

 勇ましい声がこの空間にいる全ての人に伝わる。
各々が一斉に所定の位置に向かう。
3人も苦笑いしながら自分の場所へと向かっていった。
外は粉雪が舞い僅かに届く陽を浴び輝いていた。