第五話



 誰かが呼んでいる、誰かが呼び止めている、どちらに応えても後悔してしまう気がした。
私はどちらを選べば良いのだろう、選ばなければならない。果して答えは出るのだろうか?
自分でも解からない。

 まだ意識がハッキリしない、うっすらと開けた眼に入ってくる光が妙にまぶしい。
背中に硬い感触がある、どうやら生きてはいるようだ。

「うーん・・・」

 眼を開けるとつい昨日自分が目覚めた部屋と同じ部屋の風景が視界に入って来た。
勿論、同じ部屋である筈はないが、そう感じ見えるほどに同じだった。

「起きた?」

 手に持った分厚い書物を本棚に戻しながら、ルーンが挨拶をしてくれた。
きっと今は休憩時間だと思った。

「うん、何とか」

「もう少ししか時間が無いの」

「そう、入っても大丈夫?」

 サインを確認して白いカーテンの向う側から現れたのは、やはりテクスともタカアキとも
違う金髪に青眼の人物だった。

「多少、フラ付きますけど」

「心拍、脈拍、血圧ともに異常無しだから、問題無い筈だが、とにかく次の時間が
迫っているから急ぎたまえ」

「ハッ、ハイ」

「行きましょ、ありがとうございました」

「これも仕事だからね、まぁ無理はしないこったな」

「ありがとうございます」
 
 まだ多少おぼつかない足取りで部屋を後にする。

「次は?」

「講習よ、テキスト276Pから」

「276!?」

「そう、あなた1人に合わせてる余裕は無いみたい。」

「そっかぁ・・・うん、でそのテキストは」

「自室にあるわ、今から向かうけど少し走って貰うから」

「わかった」

 相も変わらず歴然とした差があったが、それでも何とか
部屋に戻り、簡素なデスクの上に置かれているパッと見ただけでも1500Pは下らない教科書群を
肩に担ぐと言うか何と言うか、とにかくそれを持ち手歩き出す、
席は固定されているので大抵の人は教科書はそのまま置いて
時間のあう時に予習等を出かけてやっていると聞かされた。

「で、次は何をするの?」

「高等歴史政治学」

「うわぁ・・・苦手だぁ」
 
「・・・・?」




 


 覚束無い足取りで講義室へ入る、見た感じは大学のそれに似ている。
寝室の関係もあるのだろうか、フィの横にルーンが座り、その前に
ジャミルとキナの背中があった。

「やほやほー、元気〜?」

「やれやれ・・・」

「お前の方こそどうなんだよ」

 溜息をつきながら手を額に当てるキナ、とめでもない不安である。
片割れも変わらずである。

「私は、もう平気だよ〜」

「悪くても起きられたなら、連れて来られただろうがな」

 とキナ、かなり悲観的ではあるがそれが現実である。

「ほら、始まるから」

 ルーンがそう促し慌てて席に付く。直後、講師が登壇し講義が始まった。



「では、テキストを開いて、現在も続いている第7次宇宙戦争以前から
テキスト273Pを開いて――」


 



「ですから、丁度20年前に宇宙革命軍は一方的に―」

「異議あり」
 
 真っ直ぐに伸ばされた手、それは頑固たる意思を表しているのであろう、いやそうである。

「またか、先程から何度も言っているが質問は受け付けないと」

 諦めにも似た

「ですから質問ではありません、その内容が間違っていると言っているのです」

「あなたが今までどのような書物を読み齧ったか知らないがここではこれが
これこそが真実である、間違っているというのは論外である。」

「では言います、一体どうしてこのような文章が罷り通るのでしょうか?
単に偏見を煽っているだけだと気がついていない事は有りえません
そうまでして戦争を求めて何を得られるというのでしょうか?
その先にあるものが平和と呼べるでしょうか?絶対にそんな事はありません。」

「そこまでにして頂こうか?」

 何時の間にか回り込んだ4人の将兵が銃をかざしている、既に安全装置も
解除してあるようだ。

「何をしようと言うのですか?如何に戦時中とは言えこのような」

それを言い終らぬ内に放たれ、頬を掠めたそれは間違いなく実弾である。
赤い一筋の血がうっすらとしかし確かに流れている。
硝煙の匂いが立ち込めそれが事実であると言うことを実感させる。



「何を訳のわからない事を言っている?御託は戦争を終わらせてから言う事だ
そのような事を言ってここを追われた士官候補は多くは無いが居る事を忘れるな?」


「クッ・・・」

「それに今さら言うまでもないが君の反抗は即ち、君の隣人にも少なからず被害が出る事を
忘れるずにいる事だ、以後厳重に注意するように」

「・・・・・」

 もはや沈黙する事しか出来ず、黙って席に付く、その後まるで何も言っていなかったかのように
黙々と講義は続く。









「それでは今日は此処まで」

 それに合わせ全員が起立し教師役を見送る。その規律の良さは軍隊そのものだった。
その後前から順番にここを後にする。私の席は後ろから3分の1位の所にあって
全体を見渡すには丁度良い場所。変な話今頃になって膝がガクガクして
急に怖くなってしまって、歩み始めた瞬間、また撃たれるんじゃないかって、
そんな有る筈の無い想像してる自分。ポンッと軽く背中を押されて歩んだ先には
やっぱり何も無く、ただ歩むだけでした。










コンコン







 軽くドアをノックする音、それは私が心を落ち着ける時間を作ってくれ
ふぅーっと軽く深呼吸をしてから。その返事に答えました。





「どうぞ」



 無言で入って来たその友人(私はそう思っている)ルーン・ビリーラーが入って来た。
彼女は例によって無言でベッドに腰掛けている私の横に座ると。大きく息を吸って
上を仰いだ。


「どう?調子は」


「うん、まぁまぁかな」


 脈拍の無い返答だ。彼女の瞳は何時もどこか遠くを見つめている
遠くから今を見ている。驚くほど冷静な瞳
それが私にとって彼女は必要だと思うし、彼女もそうだと言う雰囲気を感じる。

 当初何処か近づき難いと言う印象を受けた、多分皆も同じだ、
彼女は拒むと同時に受け入れを求めているのだと私は思っている。


「ごめんね?」

「何を謝るの?」

「だって、後少しで撃たれて多分、ルーンも一緒に」

「おかしな心配をするのね、あなたは優しいから
退いてくれるって思っていたわ」

「けど、それだけじゃ何も変わらないし、今日した事は
結局ここに従うって事だし、私きっと後悔する。ううん、もうしてる」


「過去の事を考えるなとは言わないわ、ただした事を信じていれば良いの」

「そんな気持ちでこれから人を殺していくの?」

「そう、それしか無いの。自分の命は結局誰だって惜しい物よ」

「私には無理・・・だよ」

「そう思っているだけ」

「やだ・・・怖い・・・」

 自分がこれから何ににも手を上げる化け物に化してしまう気がした。

「そうね・・・怖いわね、人間って、けどそれでも
あなたは人間(ヒト)だし、私も人間(ヒト)だから、どうしようも無いのよ」

「うん・・・・」

 どうなってしまうか解からない、解かるわけも無い
ただこの流れに逆らえない自分が悔しかった。

「ねぇ、ルーン?」

「・・・・何?」

「私の事、話しても良いかな」

 意外な事を聞かれたのか、多少の間を置いてから彼女は

「あなたの気がそれで済むなら」

 とだけ言ってくれた。

「うん、私あんまり小さい頃の事は覚えてないの、もう真っ白って言うみたいに
それでも少しは覚えていて、丁度3つ位の時って聞いたんだけど
今のお父さまとお母さまの所に来たって、何となくその時の事は覚えてる。
私の前にも何人かの子供を預かっていたみたいで、飾られている写真を見ただけだけど。
2人とも何時もおっとりとしていたけど、厳しい時は何処までも厳しくて
『虚構に惑わされるな』何時もそう言って新聞やTV何かと比較して
批判ばかりしていた、そう言う時は少し迷惑だったけど・・・ね。
 5才の時に一度だけ宇宙(そら)に上がったの。もう開戦も間近何て言われてて
何処もかしこも妙に静かだって言う雰囲気は覚えてる。
 そう、あの時確かにそう思ったの、やっぱり地球は間違って・・」

「シッ・・・」

 それまで何もせずただ話を聞いていたルーンが不意に
口を抑えて来た、その行動の意味が私には初め解からなかった。
けど、その意味を理解するのにそう時間は掛からなかった。

「ごめん・・・」

「良いのよ、私が少し過剰になっただけ。続けて・・・?」

「解かった、それでその時にお父さまの脚に隠れてだけど
その人、エスト・エルームーラに会ったの
体をぐっと下げて私のほうを見てくれて
『こんにちわ、お嬢ちゃんっ』て。私緊張して、オドオドしながら
返事をしたんだけど、あの人笑顔で笑ってくれて、何か嬉しくなっちゃった。
宇宙(そら)へ上がったのは」

「宇宙・・・」

「?」

 ルーンの眼が不意に懐かしいような、それでいて忘れたいと願うと言うような思いが
交錯する不思議な瞳に変わっていた。


「何でも・・・もう終わり?」

「うん、今日の所は・・ネ、また話します」

「気が向いたら、また聞かせて?」

「ありがとう、そうする」
 
「今ので引き戻された気がするの、感謝してる」

「引き戻された?」

「ええ、不要な事かも知れないけど」

 ただ、この場に流れに身を任せて生きようと思っていた。
けれど彼女の言葉が漂っていた私を現在(ここ)へ引き戻してくれた。
きっと私たちは想像もしてない事態に遭遇する、そんな予感はしている。
もしその時何も考えずに、行動してこの戦争が終わった時に、きっと何も残らない
今からその事、つまり人を殺すと言う事は承知しておかなければならない。

「あっ、夕飯はまだなの?」

「そうね、後少し時間があるわね」

 困った子ねと言いながら手持ちのカードを操作し、そう教えてくれた。
意図的な物かカレンダー機能は無いらしい。

「何か知りたい事は・・・?」

「うーん・・・」

 この場で聞かれても多少戸惑ってしまう、疑問を起こす程の部屋ではないのだ
コンクリート剥き出しの余りに脈拍の無い部屋。
夕陽を浴びて鈍く光る、表からつけられた鉄格子。
簡易と言う言葉がピッタリのベッドとデスク。
床に張り付く形でつけられている壁面と変わらない扉のような割れ目。
 
 言うなれば、そう監獄という言葉が適格であり。それ以外には当て嵌まりそうに無い。
気になるものと言えばクローゼット位、その事を告げると
机の上にそのままにしてあった、フィのカードを取り出し、多少ヘコミのついた
部分にカチッとはめると、その部分はやはり扉のようで小さく開いた。
促されてその中を覗き込む

「何これ・・?」


 ある程度の予想はしていたであろうが、それは彼女の予想を越えていた。
床よりも更に深い場所に床が見え奥の壁には、それこそありとあらゆる武器
ハンドガン、手榴弾、マシンガン、サバイバルナイフ、それとその弾薬が
見え隠れしていた。

「緊急時の簡易シェルター、弾薬庫が破壊された時の武器保管庫、
用途は色々ね、白兵戦の時に為に」

 そう言いながら大きく身を乗り出し、銀色の缶状の物体を中から取り出す。
その表面には赤い色で髑髏のマークが描かれている。

「これって・・・・」

「毒ガス、もっと言うとホスゲンって言う種類よ」

「ホ、ホスゲン?」

「かつて・・・・WWT初めて使用された物よ。合成は難しくないわ」

「そうじゃなくて、なんでそんなものがあるかって聞いてるのよ」

「何で?非合法な物なんて無いのが定説よ?」


              大量破壊兵器
「そんな事無い。戦時協定でABC兵器の開発・製造・使用は完全禁止されているのに!
こんな所、こんな普通にあるなんて」

「それは、あなただけが言っている事。
良い?ここでは有り得ない事なんて何1つ無いってこと」

「それじゃあ、私の知っている事全てが偽りだって事?」

 自分の中の世界崩壊が少しづつ始まっていく、そんな気がした。

「そうとは限らない、ただ・・・あなたの言う事が虚偽になっているのは事実よ
自分の記憶を信じるならそうしなさい」
 
 その声を遮断するかのようにコンコンと奥の部屋からドアを叩く音がする。
手で待つように制してから隣の扉を開けキャシーを運び出し、それをフィに見せる。


「猫さん!、もっと見せて!!」

 3足なのが多少気になったが手を出し撫でようとする、
が、その途端鎌首を持ち上げ薬指に思いっきり噛みつかれる。

「痛ッ・・・」

 手を振り払おうとするとその手の横から
ルーンの手がそれを制す。添えているだけでは合ったが
ただ添えているだけではない何かを感じる。

「恐れずに、あなたを測ってるの」

「わかった」

 そのまま数分の時が流れようやく口を離す。
はぁーっと肩を撫で下ろすフィ、キャシーの方もヘタってしまったようで
ルーンの腕の中に潜り込む。

「はぁ、何か疲れちゃったよぉ」

「そうね、時間もそろそろだから出かけようかしら」

「はーい、それじゃあね、猫さん」

  キャシーを部屋に残し、夕食へ向かう、ただ何の味気もない夕食であったが
いささかの休息は得られたに違いない。その足で屋上へと向かう
言い出したのは勿論フィで、しばらくそっとして置こうと言う結論でも出したのか
ジャミルとキナは続かなかった。

「やっぱり寒いね」

「ええ」

 今宵も変わらず大した強風である。ただ、昨日とは違い
雲一つ無い空で月が金色に輝きながら照っている。
灯火管制かここから流れる灯りは皆無である。

「時々、思うんだ。この空に全部の事を投げ出す事ができたら
どんなに楽になれるかって。」

「そうね・・・けどそう言う時に限って空は限りなく青空で」

「今日みたいにね」

 それにこくっと頷き返すルーン、風の鳴る音だけが流れ
それに会わせるように時も過ぎていく。

「ねぇ、何か感じない?」

 右手を頭に当て風に当たっていたフィが唐突に切り出した。

「何も感じないけど?」

「そうかな、あっ・・・あれあれ!」

 そう言って指を空へ大きく指し示す。
その指は真っ直ぐとその月の方へと向けられている。
金色の月、時に蒼く、時に紅い、その月を
そこを何かが横切っている、ほんの小さな黒い点だ、それが移動をしている

「敵機」

 直感的にルーンはそう判断した、しかしそれよりもフィが彼女より早く
限りなく見えないに近い状況でそれを発見できた事である。
この闇と強風では視聴で物事を捉えることは不可能とはいかないまでも
相当な練度を要する事になるだろう。にも関わらずである。

「来て・・・」

 軽く手を引きながら、屋上を歩き出し簡易な電話へと足を運びそこから電話をかける
番号を押していない所から見て直通であろう。その電話は直ぐに終わり。
再びフィの元へ戻って来る。

「戻った方が得策よ」

「私、もうすこしここにいたい」

 ポツリポツリと言う問いにハッキリと答える、それに解かったわ、とだけ言って応じる。
俄かに陸地に小さな一直線の灯りが灯った事であろう。





「航空管制より、各機へ。只今、レーダーに敵戦闘機と思しき機影を確認した。
直ちに離陸し対象を破壊されたし、繰り返す、航空管制より―」


 格納庫へスクランブルが掛かる、サイレンが響きメカニックが慌しく活動する。
その中の一機に手馴れた様子で乗り込むパイロットその中の1人の容姿は子供、それも女性に見える。


「確認されている対象は1、速やかに撃墜し帰還されたし。
又、一切の武器使用を許可する」

「了解」

 管制官がパイロットに指示を送りパイロットの方もそれに応じ
ヘルメットを被り、酸素ボンベを口に繋ぐ。
主電源を入れモニターを見ながら人が慌しく動いているのを確認する。

 大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせながら。

「離陸許可が下りた、離陸用意を開始されたし」

「了解」

 それまで折り畳まれていたその翼を大きく展開する。
機体のベースはドートレスであろうか、その背面部に
全翼機を思わせる機体が装着されている。
そのパイロットは今、その全翼機の方のコックピットへ搭乗している。
高度の有る戦いでは上空の視界が確保できた方が利便が良い
そう判断したからだ。
 展開にあわせて翼の部分に弾薬類の搭載が開始される。
手馴れた速度で行われたそれは物の数分で完了した。

「離陸準備完了」

「了解した、滑走路へ移動されたし」

 それまで機体を固定していた機具のロックが解除されていく。
それに会わせ機体本体のモノアイが発光する、照明の関係で
解かり難いが主翼のパイロットランプも点滅を始める。
そして一歩一歩と滑走路へと向かって行く。

「固定位置到着」

「確認した、検討を祈る」

許可は下りた、後は行くのみ。

テイク・オフ
「離陸ッ」

 その合図と共に猛然と海へと滑り出す機体、そしてそのまま高度を徐々に上げ
辺りに衝撃波だけを残し飛び去っていった。
 それに続き合計3機が慌しく飛び去っていく。




 
「出たようね」

「今のがそうなの?また風かと思った」

 肩をすくめながら、パイロットランプを頼りに飛び立つ機体を送り出す。

「これから戦闘が始まるんだよね」

「ええ、そうよ」

「何か変なの、同じ空の元なのにこうして争ってる、凄くちっちゃな気がする
そう思わない?」

 その問いにルーンは答えない。









「敵、航空機を発進させた模様、数3」

「引っ掛かってくれたようだね、予備の天使達の配置はどうか?」

 何処かの司令室、いやブリッジと言うのが適当であろう。
オペレーター、索敵担当が周囲を警戒している。
横には副官と思しき男性そしてそのブリッジの中央の椅子に彼は座っていた。
一見すると眠そうな目からは軍人気質とは言い難い、だが
正真正銘彼がこの艦、もっと言えば東ユーラシア大陸司令長官である。

「巡航速度で180秒の位置に待機中です」

「宜しい、残りの天使達を現状へ向かわせ、上空にいる偵察機には帰還指示を
天使達も合流させた後、早急に帰投させるように」

「了解」









 キーンっと言う独特の音を立てながら上昇を続けている機影。
まだ上空に黒い点が見える。目標はあそこである、
恐らく革命軍側の次世代型主力戦闘機
AB-P XXX。正式な型番は不明であるが、それに違いない。
 上昇しつつ手にしているマシンガンの激鉄を起こしながら射撃を開始する。

 乾いた音を立てながら、蒼色の空間に白い絵の具を撒き散らした空に
黄色い閃光を上げながら弾丸を水兵射撃する、まだ敵機には届いていないか
回避されているのかも知れない、そしてこの闇では、命中か回避は判別の付きようが無い
そしてそれはこのパイロットにも同じである。

「誤差修正右」

 小さく呟くと銃心を僅かに傾ける。光の軌跡が徐々にそれに近づいていくのが
手に取るように解かる。

「新たな機影を確認、数推定2!」

 管制官から慌しくそう通信が入る。余程急の事だったらしくその声は上擦っている

「了解」
                     リロード
 チッと小さく舌打をすると、一度銃口を下げ再装填を行い、未だ見ぬ敵に備える。
護衛としてつけていたのだろう。今に至るまで気が付かなかった管制をうらめしく思うが
その事は後回しだ。

 ガンっと機体に衝撃が走る、モノアイで確認する間も無く次の瞬間にはそれは消えていた
本体ではない、恐らくアームのような兵器だ、それが翼を狙いながら繰り出されてくる
数は2、回避する事は彼女にとってはそれほど難しい事ではない。

 上からの砲撃音、機体を反転させそれを回避しその方向へ機銃を発射する。
いわば機銃掃射でこちらが命中さえすれば相手を撃墜する事は可能である。
他の2機も同様に苦戦を強いられているようだ。
  
「01より本部へ、応援機の許可を求む」

「今打診中に付き、可できない」

「了解」

 応援はまだ来ない、自分の心に僅かな焦りの色が見え隠れしている、
悔しいが敵機はこちらの性能を凌駕している。弾奏を入れ替え尚も応戦を続ける
だが、この機体のベースは航空機ではない、
そういう意味では敵機は飛行に特化した機体である。
 ガンッと大きな衝撃を立て、アラームが鳴り響く。先程から命中の繰り返しだ

 空しく響く機銃音、それが返って自分の位置を知らせている。
敵の砲火も性能的には大差はないようであるが、命中率が違うし
運動性能が違う。

「許可は」

「今、離陸許可が下りた、現状まで今暫く待たれたし」

 しかし、もう待っていられない。又、自分の資質が問われる、そんなのは願い下げだ。


         イジェクション
「01より航空管制へ、切離許可を願う」

 受ける相手は多少困惑気味である。
 
「許可する」

 数秒の沈黙の後、返答が帰ってくる。

「了解」

 両翼に搭載しているホーミングミサイルで弾幕を張る
勢いに乗った一機がそれに突っ込んでくる


 ガシッとその機体を本体の両腕で押さえ込み、
背部部分はそのまま分離する。
掴まれた方の機体は離脱を計ろうとするが身動きが取れない状態である。
そこに、真上から機銃掃射を浴びせ掛ける。
紅蓮の炎をあげ、爆発四散する両機。

 残った2機はその足で帰投したようだ
後には後続の2機と翼だけのそれが残った。

「帰還します」

「任務御苦労、了解した」




「嫌・・・爆発して、爆発して」

 同刻、2機の爆発するその様を地上から見上げている2人の少女。
四散した残骸の一部が火の玉となって舞い降りてくる。

「ねぇ、ルーン。私、寒いよ、とっても、とっても寒い」











「一機撃墜された模様、残りの機体は帰投中です」

「そうか、残念な事だ、敵機の機種は?」

「ドートレスタイプと見られます」

「一般的な奴という事だね、地図を」

 椅子を降り、ブリッジのやや広報にある指揮台の上に広げられた地図を挟み、
数名の仕官が対峙する。

「もうじき写真は届くだろうが、その前にやっておこうか
今日飛ばした機体はここまで足が届く」

 そう言いながらコンパスを用い大きな円を描く。

「今日はこの辺りまで来たわけだが、そこで襲撃にあった
あの機体の航空持続距離は?」

「最大でこれ位と見るべきでしょう」
 
 別の仕官が再び円を描き出す、当然のことながら
革命軍のその機体と連邦軍の機体の円は交差する。

「そう、つまり敵はこの範囲から飛ばした事になる
だが、この辺りは山岳地帯、そして領空に入ってからの
確認時間を含めると、この辺りという事になるね」

 そう言うと地図の一点を指差す。








「着陸します」

「了解した」

 発進した機体が順々に着陸を行い、収納されていく。
 彼女もまた、マスクを外しヘルメットを下ろして行く。

「任務御苦労様、次回時も頼むよ」

「はい」

 更新を終了し額に手を当て何かに耐えるような表情で当直場所へ戻る彼女
名をレナ・メテオと言う。
  


 
「ねぇ、ルーン、死んじゃった、死んじゃったよ」

 その叫びにも似た泣き声を聴いて優しく、そっと抱き締めてくれる
ルーン。

「大丈夫。直ぐ、直ぐに慣れるから」

 その言葉に多分嘘は無い、
けれどまた、少し寒くなった。