地球に来てもう2週間になります、極秘って事で手紙もかけなかったんです! その上、先輩達に会えなくて、今もとても寂しいです。 降りて直ぐは何だかよく解からないけど体が重くって気持ち悪かったんだけど けど、宇宙でも生きていける体何だからきっと大丈夫!!    それと、帰るまでにはもう暫く時間がかかっちゃいそうです。 それにしても地球って本当に凄いんです! だって空は何処までも続いているし 地平線の向こう側がどうなっているのか気になるし 朝はとっても冷えるけど、きりって言うの?それもとっても、とっても、綺麗です。  上手く撮れたか心配だけど写真を添付しておきました 先輩達にもこの気持ちが伝わりますように、絶対伝わると思うけど、ううん伝わらなきゃ変!  仕事、じゃない任務の話をすると今プログラミングの真っ最中です。 あっけど今は休憩中だよ。 アイギを持ってきたのは成功だったみたい、 私1人じゃきっと無理だけどアイギが居れば大丈夫、きっと上手く行きます!!  心配しないで、もう少しだけ待ってて下さいね。私は元気です。

第七話









 
 うっそうと茂る、そう言うと如何にもと言う感じがするが
この密林を表現するには最も適性であろうしそれ以外は無いであろう。
そのディープグリーンの中に眼を凝らしてみると森林迷彩を施された艦が停泊している。
実際はもっと多くの艦が居るのかも知れないが視界に入るのはその一隻のみである。
 と言うのもこの艦の上に先程一機の輸送機が降り立った事でそれが判明したに過ぎない
のである、つまりこのカモフラージュは実に良く出来ていると言うことである。


 その輸送機にはMS一機と数種の兵器が搭載されていたようである。
その軍靴の下で数名の仕官がこの艦の艦長を待って直立の状態で待機している、
密林と言う環境も重なってムッとするような厚さである。
程なくして数人の部下を引き連れデッキの上に姿を表した男、
この気候もあるのだろうが外へ出るのがいかにも嫌ですと言った表情である。
無論甲板へ上がる直前の話で、それ以降は軍人と言う顔に変化した。


「ルチル・リリアント少佐以下5名。統合本部からの命により
これより貴、第39極東方面軍への指揮下に入ります」

「遠方からの来訪御苦労、短い間だが宜しく頼む」
 
「ではルチル少佐、早速ですが現状確認と作戦内容協議に移りましょうか」

「そうね、ここは少し蒸し暑すぎる」

 長い髪をやや重たそうに払いながらそう答える

「それで、貴方達は自室にて待機、場所はえーっとあなた案内してあげて」
 
 彼に付き添ってきた士官を強引に案内役に抜擢し
そそくさと艦長に尽いて行ってしまう。残ったのは十台の少年少女と
可愛そうな士官1人である。







「あの子達が選ばれた子供たちですか?」

「でなければ幾ら人材不足とはあの年の子を持ってくるかしら?」

 そう言うと数枚の書類を机の上に置く彼等の履歴書である
勿論シミュレーター等のデータも克明に記載されている。
その内容をパラパラと眺める、確かに自分が過去に行ったデータとは何かが違うし
自分の部下のデータとも違う。

「成る程ねぇ、勿論君もそうなのだろう?」

 それは彼が抱いている疑念、この年、しかも女性で少佐等と言う
地位につけるのは普通の人では無いという事を暗に指した皮肉のようなものなのかも知れない。

「それは、ご想像にお任せ致しますわ」

「やれやれ、で例のレジスタンスの連中だが潜伏先は一切不明、だが少なくともこの範囲内にいる」

「随分と曖昧な話しですね」

やや呆れた表情でルチルが応じる、彼がここに来てもう数年にもなる
それでも見つけられない敵のアジト。この事は彼が有能な仕官では無いという事を
指しているのである。
 
「その為の最新鋭機だろう?それにDHMもいる、端から焼いていけば良い」

「そう事は運ばない事はわかっていますよ、この状況がそれですから」

「NTの勘って奴かい?少佐」

「そんな事ありませんよ、この艦の状況を見れば大方の仕官ならわかりますよ」

 完全にカモフラージュされた艦、それは絶対的な防御手段であるがイコール
攻撃を行う手を封じられていると言う事である。

「成る程、それにしても相手が悪すぎる。聞いた所によると少佐、あなたはリーダーの男の事を」

「よして下さい。私は今の話をしているんですよ、昔の話は関係無いでしょう?
ただ、彼が優秀であったと言う事は認めましょう、1でも10に見せる事は造作もないでしょう」

 まだよしみが多少あるか、僅かな変化さえ見逃さない。ある種の読心術とも言える
この能力で彼はこの世界を渡ってきた。

「そうか。で、どう攻撃するつもりだ?」

「これから決めるんですよ、解かってる事を言わないで下さい」







 薄暗い部屋の中スッと明かりが部屋の中に入り一人の男が入室してくる。
腕がガッチリした男が入室してくる。短く刈り上げた頭を掻く時は
多少動揺のあるときだ。そして中にはメインモニターを眺める一人の男
後姿しか見えないがかなりの細身である。

「輸送機が一機、中型だから恐らくMS搬入だろう」

「報告御苦労、下がってくれ」

 振り向かずに、それこそ機械の用に返事をする。
モニターの逆光で金色の髪が鈍く光る。

「忙しそうだな、そろそろ俺たちも引き際だろう?」

 と言うのも流石に彼等の活動の制約が日に日に大きくなってきているからだ
如何に指揮官が有能と言っても部隊の絶対数が違いすぎるのだ
それ故小規模とは言え損害は生じてしまう、その小さな損害の1つ1つが
確実に戦力を減退させていくのだ、勢力の大きさが違う為、通常の軍隊とはまるで話が別である。
そこで彼らはいよいよ革命軍勢力に合流すると言う手筈なのである。
そして、今はその最終準備段階。

「その通りだ、次に攻撃されたその時に」

「成る程な、なら良いんだが」

「敷設の方は」

「お前さんの言う通りに敷設は完璧だ」

「そうか、感謝する」

「あんまり無理するなよ、脚大事にしろよ」

「ああ、肝に銘じておくよ」

 お互いに組織の立ち上げ時からの旧知の仲である。
この若くも老練な指揮官がこう言うときには
「ありがとう」と言っているのと同じ事だった。
それを聞いて彼もまた安堵する。

「じゃあな」
 
 短く言って部屋を後にする。








「ねぇっ、ここって何処だか解かる?ナビも機能しないし」

「解かる無いでしょう?輸送機の窓に目張りまでしてたのに」

「だよね、見渡す限り森、森、森。しかも霧っぽいし」

 窓のブラインドを軽く捲りながらフィが話し掛ける。空は憂鬱な彼女たちの心を
反映して、いるかどうかは解からないがどんよりとしたグレーである。

「雪原とどっちがマシかって話ね」

「雪のほうが、けどたまには森も良いかな」

 何気なくそう呟く、雪は冬、冬が終わって春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬が来る
夏であって夏で無く春であって春ではないその密林を見ながらふとそんな事を思うフィであった。





 

「プラン的には問題無さそうだな」

「そう言って貰えて光栄です」

「早速緊急会議を召集して作戦に備えよう、フルピッチでやれば明後日には完了だろう」

「決断の早さ、最近にはあまり見ない方のようで」

「上の決断が遅すぎるだけの事さ」

 自分の事が出来ると思っている者の特徴とルチルは認識している。
自分が出来る、ずっとそう思っている。本当にそうかは考えない。
それはそれで幸せなのかも知れないが

「その腕なら昇格も遠くないでしょう。では収集を」








「今回の作戦内容は我等に楯突く革命軍勢力の掃討にある。
敵軍はゲリラ戦法で指揮系統の混乱を狙うと推測される
従って実働部隊は少数で行って貰う、その任にはレナ・メテオ伍長
ルーン・ビリーラー曹長、キナ曹長、
ジャミル・ニート曹長、並びにフィ・デ・ギレオレ曹長が当たるように
この艦に常駐している班はサポートにあたって貰う、異論は?」


「この地域には我々の方がなれている筈です、態々このような者達に
作戦の要を行わせるのはどうかと思いますが」

 1人の仕官が手を上げ質問を行う。当然の事だ
一体誰が今まで自分の場所だった所に突然現れた新人がその場所を
独占する事を許すだろうか?


「その点なら心配ない、彼女達は統合本部から特命でここの指揮下に入っている
当然、この周囲の地理についての知識も持ち合わせているはずだ
そうだろう?」

「はい、動いてみないと解かりませんが問題は無いかと思われます」

 嘘は無かった、事実彼女は5人の仲で1番実地経験が豊富だ
必然としてこのような場所での演習も受けている、但し
シミュレーション上での話だが。

「そう言う事だ、他には?」

「では、会議はここまで。作戦開始は明後日早朝である。各員準備に移ってくれ」

 MSの配置、具体的な活動詳細、詳細なミューティング。慌しく時間が過ぎていく。






 あそこで食べていたよりも更に貧相なスープとパンを食べ。
その足でデッキへ風をあたりに行く、雪国とは違ってムッとした風が流れ込み
かなり不愉快になってしまったが、それでも気分は大分落ち着く事が出来た。やがて後ろに人の気配
それが彼、ジャミル・ニートである事が解かるまで時間はかからなかった
別段不思議な事でもない、それ程この数ヶ月或いは半年で密着した訓練を行ったのだ

「あっと言う間だったね、ジャミル君」

 突然の問いに一瞬足を止めるが、すぐにまた歩を
始め彼女の横に座り込む脚は丁度宙ぶらりんの状態だ。

「君はやめろよ、場所が場所だしな」

 お互い視線を合せる事無く2人は話し始める

「良いじゃない」

「良くない、ちーっとも良くない、お前が良くても俺には良くないんだ、解かったか
このバカ娘」

「うぅ」

 彼女が次に言うであろう言葉をカタッパシから言って口を封じにかかる
勿論、効果覿面。もう返す言葉も無い。

「きっと上手くいくさ。お前はお前の出来ることをやれば良い
まっお前がトチッても何もかわりゃし無いさ、皆それは解かってる」

「何か、引っ掛かるなぁ。けどいっか」

 1人の少女は笑顔でより高みの空を見上げた。
















 真昼の空に甲高い音を立てほぼ同時に放たれた2つの矢が上昇していく。
何処までも上昇しつづけるかと思われたそれはある一点で突如爆発し
無数の光となって地表へと落下ちていく。それが着弾した刹那
無数の炸裂音が響き渡り炎が広がる、緑は紅の世界へと豹変する。

 その焔を遠くに確認し進んで行く計4機のMS小隊。
色が唯一違う1機はドートレスHMCワイズワラビー
残る3機はドートレスHMファイヤーワラビーである。
先頭にワイズワラビーが立ち、その後方をファイヤーワラビー2機が固め
そして殿に残りのファイヤーワラビーがついている。

「こちらジャミル、第一波は届いたか?」

 小隊から遥か後方からの通信である。
彼はヘルメットの他に幾つかの計器で心身を計測されている。

「問題無いわ。第2波は15分後に」

 ブルーの機体に乗った少女がそう答える。

「了解した」

「全機、構えて」

 それを合図に3機のMSが左右のラックに
一機づつとりつけられている火炎放射器を手に取る。

「発射用意」

 グッと踏ん張りの姿勢に入る。

「発射」

 その合図とともに紅蓮の炎が先程の小型焼夷弾が着弾した方向に向けて解き放たれる。
着荷して暫くすると幾つか爆発が起きた、恐らく敷設されていた対MS地雷だろう。







「始まったようだ、先程大きな閃光を確認した、見た事無い型だから恐らく新型だろう」

 頭を掻きながらあの男が彼に報告する。
1番焦るべき本人は新型のことは気にも止めずただ、その時がきた事を確かめていた。

「時間通りだな、では始めるとしよう」

 短くそう言うと車椅子を動かし何処へかと消える。







「前75に金属反応」

 コックピットに追加されたセンサーを確認しながらフィが報告する。
彼女の機体に装備されているのは金属探知機だ、無論、プラスチック製の
ものなら引っ掛からないだろうが今の炎で燃えてしまっただろう。

「こっちも、30の方向に確認した」

 キナの報告も同じであった、3機のセンサーはそれぞれ60度重なるように
編隊が組まれている。小さな反応はあるがそれも些細な事で進路上にあるものは
爆破し、それ以外の物には手をつけずに進行する。
これは逆に自分の位置をさらしている事に成るのだが。しかしそうしなければ
進めないように地雷の敷設位置は完璧だった。

「了解、各自前進開始、なおもチェックを怠らないように」

 そう言いながら確認された地雷に対しマシンガンで掃射をかけ爆破させる。

 一歩一歩森を焼き払い尚も前進を続ける4機、
遥か上から見ればそれは探検を続ける小さな子供たちに見えたかも知れない。
 
  焼き払われていない場所まで到達すると、再び超長距離からの射撃。
この方法は即ち敵の退路を塞ぎ、徐々に退路を削っていく作戦だ
本来なら航空機の支援が不可欠であるが、今ジャミルが乗っている機体によって
その必要は無くなり、地上からの攻撃で事足りているのだ。

 
 一端静止し4回目の射撃を見送る。小型爆弾の炸裂を確認しながら
前進を再開する。


「前方に地雷原、数は同じくらいだけど」

 歩き始めて間も無く探知機がやかましい音をたてて警告する。
その事をレナに報告すると位置を確認してマシンガンを浴びせ掛け爆破
だが、すぐに疑問が湧く、爆発が地雷の爆発ではないのだ、
爆発させる為の地雷、そんな言葉がピッタリだった。
そして1つの爆破をきっかけに周囲に仕掛けられていた地雷が断続的に爆発する。
嵌められた

「非常事態発生」

 第一声を発したのはレナだった、やはり彼女はプロだ、何が起きるかを
把握している。実際は混乱しているに過ぎなかったが。

「熱源体接近!!!」

 叫び声を上げながらレーダーを確認しながキナが報告する、
普通のミサイルなら動じる事は無い、だが今の爆発でサーモグラフィーは全く役に立たない。
煙の中の何処から飛んでくるのかわからない。

「攻撃用意」

 耐熱処理くらいは確実にしている、つまり炎に突っ込んだ瞬間探知が効かなくなるのだ。
対するは直接攻撃、この場合はサーベルで切りかかるしか方法が無い
攻撃と言う言葉が指す意味を瞬時に理解し来るであろうミサイルに備える。
軌跡が消えた。

「確認」

 小さく呟くと、右足を大きく踏み出しサーベルで一機を切り払う、そのまま
一回転し元の体形に直る、そうして次の一気に備える。

「通信は!?」

「ダメだ、何故か知らんが回復しない」

「ジャミングか」

 チッと短く舌打ちすると。前方に意識を集中し。次々と叩ききっていく。
他の3人も同様だが全く動きが違う。

「3機の突入を確認、ラストだ」

 その2機を更にレナが断ち切り、残る1機もフィが両断する。

「次波の可能性は?」

「そうだな、いや。もう来てるみたいだ メイツが5機」

 情報を統括するキナの機体には接近する機影を捉えた。
何時から降り始めたのかスコールが地面を濡らし始めている。

「撤退ね」

「馬鹿な事言わないで、この程度で撤退するなんて」

 ルーンのその一言でレナが感情的に反発する。
時折逆鱗を垣間見る事があった。それは大抵、いや全て
彼女のプライドを傷つけた(と思われる)場面であった。
殊更出来る事を出来ないと判断された時が1番激しい、例外なく今回もこのパターンである。
誰でもそうだとは思うが。


 雨は降り続く。


「(どうする)」
 

 この状況下でのベストの判断
まず、位置を把握されている。次点にここが地雷原であると言うこと
火炎放射器で地雷を焼く事は可能だが、その間に攻撃されれば手出し出来ない。
ただでさえ数で一機負けている。接近戦用のメイツに勝てる可能性はかなり低い。
最後に通信系統が寸断されているという事だ。後方部隊はそう遠くない位置にいるだろうが
厳しい事に変わりはない。ただここで死ぬ事は出来ない。こんな所で

「後方部隊に合流します」

「了解」

 3人の返事を確認すると。反転するタイミングをはかる。
不意に一機から通信が入る。

「行って下さい」

「当然、ただ必ず生還する事。経歴に傷になる」

「解かってます、御武運を」

「お前こそな」

 彼の言葉を残し3機のバーニアの軌跡が雨の中へ行きえていく。
敵は5機。

「こののぉぉ!!!」

 自らを奮い立たせるように叫びながら、突撃していくフィの姿が有った。

 まずは脚を止める。時間を稼がなくちゃいけない。長くは持たないけど
火炎放射器を使うしかない。

 バックパック左右にマウントされているそれを発射する。
幸いにして火炎放射器に対してはそれ程拒絶反応を示さなかった。
それでも長くは持たず精神が参ってしまうが。
敵が散開して行くのがわかった。まずは一機、自分のギリギリの所まで火炎報社を行い
そのままそれを前方に投げつけ、そのままもう一方の火炎放射器を使って投げた方を破壊。
一瞬、火炎の帯が舞い上がりそして瞬く間に消えていく。
炎が消えたのを確認して一機のMSが一直線に突っ込んでくる。
それに呼応するようにサーベルを抜く機体が一機、だがいざ攻撃という所で
そのMSはサーベルを持ち替え、柄の部分で突っ込んできたMSのコックピット部分に
当身を行った。胸部がグシャッと潰れたそれは力なく前のめりに倒れた。

「後、4機」

 前進させてはいけない、その気持ちで一杯だった、少しでも時間を稼ぐ。
そう思っている内にも自機の横を2機の機体がすり抜けていった。
追撃しようと姿勢を回転させようとしたとき残った一機が上から
サーベルを振り下ろして来た。サーベルが機体の頭部を捕らえたと思われた時
斬られるべきMSの左腕が攻撃を防いでいた、ジリジリと融解して行くのが目に見える。
そして、その様子を確認する為に眺めていたパイロットの視界が暗に転じる。

 
 右手にサーベルを持ち、僅かに残った左腕が力無く垂れ下がっている機体。
一瞬溜息を付いて再び姿勢を転じた彼女の瞳が見たのは、先程自分がした戦闘と
殆ど変わらないものだった、眼前にサーベルの柄が見える。唯一違うのはそれには
サーベルの刃が見えない事だ。つまり今向けられているのはサーベルが出る面
降伏勧告に違いなかった。このまま一歩でも動けばサーベルが実体化しコックピットを貫く。
 選択肢は2つしか無いようだ。そしてその1つの選択肢に彼女は従った。

 雨が降りしきる中、彼女の足がぬかるんだ大地に降ろされた。
髪を頬を、身体に伝わる雨、見上げると先程のMSが下を見下ろしている。
モノアイの赤い発光が印象に残る。足元を見ることは無かった。
センサー越しにいるであろうパイロットを見つめていた。ひたすらに。
雨音に混じってハッチの開く音が聞こえる、振り返れば人が出てくるのが見えるであろうが
それに気をとられているひまは無かった、一瞬でも気を許すと
この寡黙な巨人に踏み潰される、そんな錯覚に。






 話は前後する。

「ルチル少佐、前線との通信が不能です!」

 1人の少年が通信機に向けてそう叫んでいた。年の齢は10代の前半に見える。

「通信妨害ね、落ち着いて。一切の砲撃を中止」

 落ち着いた女性の声が彼に指示を出す。別所で指揮を出す彼女の瞳にも
立ち上る黒い煙と、それでもまだ緑を保つ森と、そして雨が映っていた。
或いは、この地に彼の後ろ姿を見たのかも知れない。

「了解」

 必死に落ち着けようとした声で彼が応える。







 雨の音が聞こえる、絶え間なく、ひたすらに
足元の感触が冷たい、きっとコンクリート。体が大分冷えるし頭もズキズキする。
後ろ手になっている腕を動かしてみる。他の腕は動くが親指が動かない
きっと親指に手錠がかけられているのだろう、この方がより拘束性が高いと、そう教わった。
もう大分昔になってしまったけれど。
カチャカチャと多少動かしてみるがそれもやはり無駄な努力に終わり
この冷たい空気に暫く身を任せる事にした。 
あの後、人の気配を感じて我に帰った事は憶えている。
けれどその後に後頭部から聞こえて来た鈍い音、きっと銃のグリップで殴られたんだ。
そして遠ざかっていく視界、ぬかるんだ地面に冷やっとした感触も
相当の泥もついた筈だが、拭われているのかあの独特の感じは無い。


「失礼する」

 唐突に扉が開き、一人の男が入室してきた。
性別がどちらであるかと言う事に気付くのは少し後の事であるが、とにかく誰かが入室してきた。
入口に背が向いているのでそこまではわからない。

「暗い部屋で我慢をさせているかな?、暫くの辛抱だから勘弁してくれたまえ」

「いえ」

 こんな返事しか出来ない自分がもどかしかった。そして声の調子から
その人が男である事がわかった。年齢は解からない。

「一応手錠をかけさせて貰った」

 そう言うと、そのままフィの後ろの鍵を外し
彼女の正面の机に着きライトのスイッチを入れる、
ぼんやりとした程度だが部屋が僅かに明るくなる。
そこで彼が金髪である事と痩せているのが解かった。小さな灯りでも明暗がハッキリ解かる。
そして机の上には彼女の持ち物が並べられていた。
携帯モバイル、手榴弾、やや厚くなっている靴底(これは爆弾だ)、サバイバルナイフ、
スタンガン、簡易防毒マスク、ホスゲン入りの管、そして小さな針
だが彼女の銃は彼女の元にあった。弾は一応込めてはある。
震える手で強引に弾奏を装填したのを憶えている。じゃあ何故銃を抜かなかった?

  
「先生は元気のようだね?」

 唐突にそう切り出した彼がフィのモバイルを手にしてその裏面を見ている。
先生?

「失礼、「タカアキ・コバヤシ」先生の事を言っているんだ」


「どうして先生を知っているの?」

「成る程、当然の質問だ。先生を知っているから。それ以上の理由は無い」

 そう言うと、彼はキーボードを目まぐるしく叩き始め、やがて直ぐにそれは終わり
また雨音だけが残った。

「これを帰ったら先生に」
 
 それだけ小さく言うとモバイルを再び机の上に置く。

「名前は?」
 
 やっとの言葉がこれである。

「名前?、それがどうかしたと言うのかね?」

「名前が無いんですか?」

 突拍子も無いことを聞いている自分に驚いていた、
だって、名前が最初から無いような口ぶりでそう言うんだもん。

「そう解釈して貰ってかまわない」

 変わった人、それが第一印象だった。

「どうして先生を知っているんですか?」

「知っていたからさ」

「そうじゃなくて」

「解かっているよ、先生とは同じ時を過ごした仲間だった。
君、いや君達の教官、「ルチル・リリアント」と一緒にね」

「ルチル先生と!?」

「ああ、そうだ。彼女は私よりも3つばかり年下だったが」

「一緒の訓練を?」

「そう言う事だ」

 とても信じられなかった。ルチル先生はかなり若い、けれど
この前にいる人とは見た目の差が開きすぎてる。
私たちはそれ程歳は離れていない、ルチル先生のときもきっと同じだった筈だ
しかし、どう見てもこの男の人は30を過ぎている。嘘を言っているの?
それ程の体験をしたという事だろうか。

「それも当然の事だ、私自身驚いている、この数年で私は歳をとりすぎた、と」

 困惑の表情から読み取ったのだろうか、それにしても多弁なのか口数が少ないのか
サッパリ解からない人だ。

「何故、私を此処に?」

 沈黙

「どうしてですか?」

 再び沈黙

「例えるなら君に私達を殺して貰うため、と言えば良いかな?」

 やや自嘲気味に彼は言った

「私には、出来ません。する理由もありません」

 フッと一息ついて彼がゆっくりと喋り始めた。

「我々は戦争をしているのだ、我々を殺して貰う為にそれ以上の理由は必要ないだろう?
君には感謝している。お陰で貴重な友人を失わずにすんだ」

 自分の部下を友人と呼ぶ、これは彼に限った事ではないが多く使われる事は無い
部下とは言わば駒である、それを操るのに情は必要ない。

「その友人を再び殺せというんですか?」

「ああ、そう言う事だ形式的にの話だが、無論君にも選択肢を与えたい
その為にその銃だけはとっておいた」

 本当は知っているくせに。
 
「選択を敢えて上げるなら3つほどかな?我々の条件を受け入れる。我々の仲間になる。
我々を皆殺しにする、こんな所か」

 気付いた時、私は震える手で銃口を彼に向けていた。

「どうして、先生の所を離れたんですか?」

「物騒な事をしなくても、言えば教えるさ」

 
 彼の目はもう遠くをみているようだった、しかし視線は銃口を向いたままだ。


「彼女、ルチル・リリアントと知り合ったのは16の時だ。
彼女は11、少ない仲間だから必然的に
お互いに信頼していった。これも向うの策略だったかも知れないが
とにかく、私たちは順調に訓練を受けた。そして、約2年間が経った
知っての通りあそこにはカレンダーと言う物が無いので。推定18位だと思っている。
今の私も年齢などあまり関係無いが」

 そう言って彼女のナイフを弄び始める。昔の感覚が残っているのだろうか
手馴れた手つきでナイフを軽く投げてはキャッチを始める。

「その時、初の実戦は革命軍勢力掃討だった、実質は反連邦組織掃討だったが。そこで私は
人を踏みつけた、MSでな。そしてその時、始めて人の心が見えた。
それが世に言うニュータイプの力と言うならそれも良いだろうし、もっと別の物かもしれない
とにかく、それは私にとって重すぎた。お陰で私は2足を失ったに等しい。
あながち君が銃を撃てないのも同じ要因かも知れない」

「私は人殺しをした事は無いし、これからもしたくありません!

「そうか、なら良い、ただ」

「ただ?」

「人は忘れて行く事で生きていける。
例えば私が人を踏み潰した事を思い出したとして、私が死ぬ事もあると言うことだよ
人は強く、そして脆い。よく出来ていると思う
何を思い出しても、そして忘れても全て君の為になっている。
恥じる事じゃないし怖がる事じゃない」

 彼は何を言っているのだろう

「ええ」

「ただ、決して忘れてはならない事もある。
あの事があって、私はあそこにいてはならないと思った。身体で感じたと言うべきか、
脱出の時不思議と足が動いた。一機のMSと共に逃げ出し、そして今ここにいる。
何故ここにあるか、よく考えてみる事だな」

 手の震えが収まっている、気がつくと銃をホルスターに戻していた。

「何の為に生きるか、何をしたいか、それだけで良い
結果、私と同じように足を失い、或いは心を失い、或いは光を失い、
或いは四肢を失い、そして死ぬ事もあるかもしれないが」

 暫しの静寂、そして

「それでも、私は戻りたいと思います。今は、みんなと一緒にいたいから」

「もし、これから君の友人、あるいは仲間が刃に襲われ。その場に君が居合わせたら?
そして、君の戦い方が通用しない相手だったら?それは例えば私かもしれないが」

「私が人を殺してその人が助かるなら、それを受け入れます、
あなたが先に行った事が私に起こったとしたとしても」

「そうか、その答えに間違いが無い事を願う
しかし、そうならない事もあるだろう、つまり君の目の前で友が死ぬと言うこともある
そう言う事もあると言う事も憶えておいてもらいたい」


 そう言うと彼は自分がするべき行動を教えてくれた。
朝まで私を眠らせておく事、その後プラスチック爆弾でここを爆破して
MSでも徒歩でも良いから逃げ出す事。そして、この事を誰にも口外しない事。
もし口にしたならばその後に残るのは骸だけと言うことを。

 レクチャーを終えると、彼は一本のハイドロ注射器を取り出した。
それを右手に当てる。いざ注射をする直前でふとその手が止まる。

「こんな事をしておいて言うのも難なんだが」

「なんですか?」

「君の未来に希望の風を、そして平和な時代が来る事を願って」

「はい!」

 満足そうな笑顔を浮かべ、そして少し残念そうに注射器を押し始める
そして、意識がゆっくりと遠のいていった。その始終、彼の気配が傍を
離れる事は無かった。




 その数分後彼の副官が入室してきた。
安らかな寝息をたたえている彼女の横にいる落ち着いた表情の彼を見て、
ふと彼女に戻るという選択を与えてしまったという事に彼が後悔しているのではないか?
そう思って何気なく訪ねる。話に聞かなくても
初の実戦で両足が不随となると聞けば誰でもそう思うだろう。

「良いのか?これで」

「ああ、これで良い。全ては彼女が決める事だ」

「そうか、急ぐぞリト」

「解かっている」

 施設の外には数機のMS、その内の一機は著しく形状が異なっている
連邦軍のドートレス、革命軍MSとも、また別の型番を持つAB-Pシリーズの
何れとも違う一機、それは後にガンダムと呼ばれる機体である。

 雨は降り続く







 次の朝、雨は止み、変わって朝霧が立ち込め、赤味を帯びたオレンジ色の炎が立ち上る中を
フィは脱出し、そして救助された。施設・MSは全ての爆発炎上を確認したとの事だった。

 
 短い査問を終えて、彼女はようやく仲間達の元へ帰る事が出来た。
狭い廊下の中で確かに待っていてくれた。それだけで嬉しかった。
その中から1番年下で、けれど1番階級が上のレナが歩み寄って来る
決して大きな身長とは言えない彼女の話を聞く時にはやや背をかがめなければならないが
当の本人はそれを嫌っているようだった。


「バカ」

 耳元で、彼女はこう呟いた。

「え?」

 よく聞こえない.

「バカって言ってるのよ!!バカ!!!!」

 今度は間違い無くこの通路にいた人全員に聞こえる声であった。
ルーンはともかくとして、目に見える範囲にいる人たちが揃って目を見開いている。
ルーン以外の視線が目に入ったのか、直ぐに口を塞いで陰気な目でフィを見つめる。

「バカ、バカ、バカ、バカ。生きて帰ってこれたから良かったけど、帰って来れなかったら
どうするつもりだったのよ!、私の責任問題になっちゃうじゃない。とっても心配したんだから」

 バカと言う言葉に合わせてポカポカと叩いてくる。
話の内容は酷く残酷でしかもとんでもない話しである。

「ごめん、ごめん。けど帰って来れたんだから、ね?」

 これがルーンなら即刻射殺されていたかも知れない。そうならないのは彼女が利口では
無いという所に依存する物が大きい。

「今度は絶対許さないんだからね」

 また呟くような声で言うと軽く拳を振り上げフィを小突くような形となり、
そのまま小走りで自分の部屋の方向へと行ってしまった。
一行を除くこの艦の常駐職員は今のこの出来後を早速噂し始めた。
中にはフィを指差す者まで出る始末、以後この艦を離れるまで気まずい雰囲気が漂ったが
その話は置いておこう。

「俺、レナの所行ってくるから」

 第二のまとめ役のキナがそう切り出した。きっとこんな大声を張り上げてしまった自分を
恥じているのだから慰め役が必要でそれは大抵彼の役割なのである。
ルーンでも大丈夫なのだろうが、頼もうとするとその視線がグサッと刺さるようで頼めないでいるのだ。

「わかった。俺は先に部屋戻ってるからな」

「おっ、それとフィ。おかえり」

「おかえり」

「おかえりなさい」

 残りの二人もそれに順応するように答える。
戻って来て良かった。皆と一緒ならきっと生きていける。

「うん、ただいま!」






 何処かの艦上、その一部屋の中で話しである
中には2人の男、一人は若く、一人はやや歳をとっている。
副官と、その上官、そんな雰囲気である。
彼のデスクの右端にはには重厚な仮面が置かれている。

「そう、新しい機体が手に入ったんだ」
 
 司令官の方に緊張感は殆ど感じられない。
余裕の人と言うべきであろうか。
対して副官の方は真面目な印象を受ける、指揮官が軽すぎるのもその一因でだろうが。
           潮流
「間違いないな。近くタイドと共に到着するだろう」

「作戦開始だね」

「そう言う事です、司令官」

「解かってるよ。これから忙しくなるね」

 彼は笑顔でそう言った。